サマリー
◆米国政府と中国政府は5月11日に、貿易不均衡是正に向けた「100日計画」の具体策を発表した。これらの政策が実行に移されても2016年に中国側統計で2,500億米ドルに達する中国の対米貿易黒字を大きく減らすことは期待できない。北朝鮮問題に対する中国の貢献を強く期待する米国と、5月14日、15日の「一帯一路」(海と陸のシルクロード経済圏構想)国際会議の箔を付けるために米国からの代表派遣を切望する中国が、合意しやすい項目を選んで成果を強調したというのが現実的な評価であろう。それでも、米トランプ大統領就任で懸念された米中通商関係の悪化が回避されていることは、米中貿易にとって良い話である。
◆中国の実質GDP成長率は2016年1月~3月以降、3四半期連続で前年同期比6.7%(以下、断りのない限り前年比、前年同期比、もしくは前年同月比)であったが、10月~12月は6.8%、2017年1月~3月は6.9%と成長が加速した。大和総研は想定以上に強い足元の成長率を受けて、2017年の成長率予想を従来の6.4%から6.6%へ上方修正した。ただし、今後は内需の勢いが鈍化していくことを背景に、この1月~3月を当面のピークとして、成長率は緩やかに減速していくと見ている。
◆2016年以降の景気を支えた乗用車、住宅、インフラの3本柱のうち、乗用車販売は既に息切れし、不動産開発投資も年後半には減速する可能性が高い。さらに、2018年は住宅価格の下落が中国経済の下振れリスクを高める懸念がある。前回の住宅価格下落局面、即ち土地使用権売却収入が減少する局面では、地方政府債務の地方債への置き換えという政策対応が奏功し、インフラ投資の高い伸び率を維持することができた。しかし、地方債への置き換えが一巡する2018年以降は、少なくとも同じ手法は使えない。
◆2017年秋に5年に一度の党大会の開催を控えて、中国政府は経済の安定成長を最優先し、実質GDP成長率が加速する局面が出現した。ただし、それを支えた政策対応は息切れしつつあり、特に2018年の中国経済には不透明感が漂い始めている。財政のさらなる拡大などの政策対応がなければ、景気下振れリスクが増大することになろう。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
執筆者のおすすめレポート
同じカテゴリの最新レポート
-
中国経済見通し:内需不振で強まる減速傾向
2026年は自動車販売台数も急減速(あるいは減少)か
2025年09月24日
-
中国:力不足、あるいは迷走する政策と景気減速
依然不透明なトランプ関税2.0の行方
2025年08月22日
-
中国:年後半減速も2025年は5%前後を達成へ
不動産不況、需要先食い、トランプ関税2.0の行方
2025年07月22日
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
第226回日本経済予測(改訂版)
低成長・物価高の日本が取るべき政策とは?①格差問題、②財政リスク、を検証
2025年09月08日
-
聖域なきスタンダード市場改革議論
上場維持基準などの見直しにも言及
2025年09月22日
-
今後の証券業界において求められる不正アクセス等防止策とは
金融庁と日本証券業協会がインターネット取引の新指針案を公表
2025年09月01日
-
日本経済見通し:2025年9月
トランプ関税で対米輸出が大幅減、製造業や賃上げ等への影響は?
2025年09月25日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
第226回日本経済予測(改訂版)
低成長・物価高の日本が取るべき政策とは?①格差問題、②財政リスク、を検証
2025年09月08日
聖域なきスタンダード市場改革議論
上場維持基準などの見直しにも言及
2025年09月22日
今後の証券業界において求められる不正アクセス等防止策とは
金融庁と日本証券業協会がインターネット取引の新指針案を公表
2025年09月01日
日本経済見通し:2025年9月
トランプ関税で対米輸出が大幅減、製造業や賃上げ等への影響は?
2025年09月25日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日