サマリー
ニューノーマル(新常態)やサプライサイドの構造改革には、痛みを伴う部分があり、2014年~2015年にかけて、一部地方では過剰生産能力を抱える重工業分野の新規投資の落ち込みや、内需減速による需要低迷などが、鉱工業生産や固定資産投資の大幅減速(もしくは減少)をもたらした。東北三省(遼寧省、黒竜江省、吉林省)や山西省、河北省の成長率は大きく鈍化したのである。
こうしたなか、中国政府は乗用車と住宅の購入刺激策を打ち出し、2016年には乗用車販売と住宅販売の伸び率が大きく加速した。加えて、地方政府融資平台(中国版第三セクター)の短期・高金利の債務を中長期・低金利の地方債に置き換えたことで、国有企業の資金繰りが改善し、これがインフラ投資の堅調を資金面で支えたこともある。乗用車、住宅、インフラ投資はともに、鉄鋼や電力(中国は石炭火力が中心)の需要を高め、遼寧省を除く上記地方の景気は底打ちから回復に向かった。2016年の従来型産業のテコ入れは、中国全体の底堅い景気を支えたのはもちろんのこと、ニューノーマルやサプライサイドの構造改革の痛みが強く出た地方経済への政策手当てという側面があったのである。
サプライサイドの構造改革は、①過剰生産能力の解消、②過剰不動産在庫の削減、③脱レバレッジ、④企業コストの引き下げ、⑤不足の補充(イノベーションなど)、の5つの柱からなる。重点中の重点は①であり、2016年は鉄鋼と石炭の過剰生産能力削減が推進された。鉄鋼は2016年に4,500万トンの削減計画に対して6,500万トンを削減し、石炭は同様に目標2.5億トンに対して、2.9億トンの削減となった。2017年はそれぞれ、5,000万トン、1.5億トンの削減が目標とされている。
需要増加と価格上昇によって、鉄鋼業の税前利益は2015年の前年比67.9%減益から2016年は同2.3倍増益へ、石炭採掘業は同65.0%減益から同2.2倍増益へと急回復を見せた。2016年8月に出版された「中国債務」(主編:姚余棟、金海年)によると、2015年は中国の上場会社1,725社のうち144社が3年連続の赤字決算となり、多くが鉄鋼、化工、石炭、セメント、ガラスなど過剰生産能力を抱える業種である。こうした産業で業績が改善すれば、元利払い能力が増強され、貸出の不良債権化リスク低減が期待できることになる。
このように、ある程度需要を刺激しつつ、過剰生産能力を削減することは好ましい成果を上げつつある。前者に関連して、李克強首相の政府活動報告では「2017年の実質GDP成長率目標は前年比6.5%前後とし、実際の取り組みにおいてよりよい結果を得るように努める」とした。後者について、3月の全人代では鉄鋼と石炭の過剰生産能力のさらなる削減に加え、2017年は石炭火力発電能力を5,000万キロワット以上削減することを新たに公約に掲げた。ただし、2017年1月12日の国有資産監督管理委員会会議では、非鉄金属、造船、石油精製、建材の過剰生産能力の削減に言及しており、今後の動向が注目される。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
同じカテゴリの最新レポート
-
中国:26年1Qは予想外の堅調で5%成長
ただし、中東情勢緊迫長期化なら政府目標4.5%~5%成長は困難に
2026年04月17日
-
中国:堅調スタートも持続性には疑問符
不動産不況、需要先食いのツケ、中東情勢緊迫化
2026年03月24日
-
中国:第15次5カ年計画を読み解く
成長率目標は設定されず。数値目標は安全保障の優先度上昇を示唆
2026年03月16日
最新のレポート・コラム
-
中国:26年1Qは予想外の堅調で5%成長
ただし、中東情勢緊迫長期化なら政府目標4.5%~5%成長は困難に
2026年04月17日
-
原油高の国内への波及経路と価格転嫁率を踏まえた消費者物価への影響
原油・天然ガス・石炭価格の10%上昇は物価を最大約0.3%押し上げ
2026年04月17日
-
令和8年金商法等改正法案 有価証券に関する不公正取引規制等の見直し
市場制度ワーキング・グループの提言がそのまま反映される
2026年04月17日
-
熊谷亮丸の経済・金融 Foresight 何故、円安・ドル高が止まらないのか?
中東情勢の混乱が続く中、円安と物価高・実質賃金低下の悪循環が継続するリスク
2026年04月16日
-
ホルムズ海峡封鎖で変わる世界地図—改めて問われる「成長投資」とは?
2026年04月17日
よく読まれているリサーチレポート
-
米国:AIブームの裏側で高まる金融リスク
ITセクターの収益懸念が揺らすプライベート・クレジット市場
2026年03月13日
-
超富裕層の株式譲渡所得への税率はミニマムタックス込みで最高35.63%に
2026年度税制改正大綱解説(3)富裕層課税(ミニマムタックス)
2026年02月09日
-
中東情勢緊迫化が日本経済の下振れリスクに
原油価格100ドル/バレルで26年度の実質GDP成長率は▲0.2%pt
2026年03月02日
-
ガバナンス・コード改訂による取締役会等機能強化
取締役事務局の役割を列挙、保有現預金の検証、「コーポレートセクレタリー」への言及など
2026年03月11日
-
「SaaSの死」は何を意味するのか?
AIエージェントが促すSaaS業界の構造変化、経済社会・雇用への波及
2026年03月03日
米国:AIブームの裏側で高まる金融リスク
ITセクターの収益懸念が揺らすプライベート・クレジット市場
2026年03月13日
超富裕層の株式譲渡所得への税率はミニマムタックス込みで最高35.63%に
2026年度税制改正大綱解説(3)富裕層課税(ミニマムタックス)
2026年02月09日
中東情勢緊迫化が日本経済の下振れリスクに
原油価格100ドル/バレルで26年度の実質GDP成長率は▲0.2%pt
2026年03月02日
ガバナンス・コード改訂による取締役会等機能強化
取締役事務局の役割を列挙、保有現預金の検証、「コーポレートセクレタリー」への言及など
2026年03月11日
「SaaSの死」は何を意味するのか?
AIエージェントが促すSaaS業界の構造変化、経済社会・雇用への波及
2026年03月03日

