最も警戒すべき米中間の火種は?
今月の視点
2016年12月26日
サマリー
米国の次期大統領トランプ氏は、「中国からの輸入品に45%の関税をかける」「中国を為替操作国に認定する」などと発言し、物議を醸した。
2015年の中国の対米輸出は4,092億米ドルと全体の18.0%を占める。仮に米国が45%の輸入関税を課した場合、中国の対米輸出は、大打撃を受ける可能性が高い。中国への影響は言うまでもないが、対中国輸出に占める中間財の割合が高いマレーシア、台湾、韓国、インド、日本、タイといったアジア各国・地域も大きな影響を受けることになろう。
確かに、貿易政策上、米国の大統領に付与された権限は大きく、150日を超えない範囲内で、輸入割当を実施し、あるいは15%以内の輸入付加税を課すことができる。それでも、中国からの全ての輸入品に45%の関税をかけることは、その権限を大きく逸脱しているし、WTOの規定違反である。
一方、為替操作国の認定は米財務省が行うため、実行される可能性はある。しかし、人民元レートの水準は、明らかに割安に放置されていた10数年前と現在とは状況は大きく異なる。人民元の実質実効為替レートの推移を見ると、中国が事実上の米ドルペッグ制を取り止め、管理フロート制を導入した2005年7月21日以降、およそ10年にわたり元高傾向が持続し、2005年~2015年までの間に59.1%上昇した。2016年こそ元安が進展しているが、現在の人民元は少なくとも明らかな元安とは言えない。
加えて、2015年8月11日の元レート切り下げ以降、当局が実施しているのは、急速な元安を避けるための人民元買い支えである。これを為替操作と批判するのであれば、トランプ氏はさらなる元安を望んでいることになるが、もちろんそうではあるまい。
トランプ氏の上記2つの発言は妥当性を欠くということになろう。だから問題は起きないと言えればよいのだが、米国第一主義を志向する新政権の保護主義的傾向がどのような形で政策に表れるかは予断を許さない。
何をしてくるかよく分からない不透明性こそが最大のリスク要因であり、これは、経済・通商問題に限らない。外交や軍事分野でも不透明性が高まっており、既に米中間では台湾問題が火種となっている。中国は、両岸(大陸と台湾)問題を国家主権や領土といった核心的利益にかかわる、最も重要で敏感な問題と捉えており、トランプ氏の「一つの中国」に縛られない、との発言は当然看過できるものではない。核心的利益である以上、中国にこの問題で譲歩する余地は全くなく、強硬な姿勢を取らざるを得ない。台湾問題は我々が考えている以上に深刻で、米中関係の著しい冷え込みを招きかねない重大なリスク要因として認識しておくべきであろう。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
関連のレポート・コラム
最新のレポート・コラム
-
2022年05月27日
内外経済とマーケットの注目点(2022/5/27)
世界経済の先行きは不透明だが、最近の日本株は底堅く推移している
-
2022年05月27日
パーパスドリブンで切り拓く「ポストSDGs時代」の経営
経営戦略としてのサステナビリティ
-
2022年05月26日
消費データブック(2022/5/26号)
個社データ・業界統計で足元の消費動向を先取り
-
2022年05月25日
日本のインフレ展望と将来の財政リスク
コアCPI上昇率は2%程度をピークに1%弱へと低下していく見込み
-
2022年05月26日
米国株式市場の注目点
よく読まれているリサーチレポート
-
2022年03月22日
日本経済見通し:2022年3月
ウクライナ情勢の緊迫化による日本・主要国経済への影響
-
2022年01月24日
円安は日本経済にとって「プラス」なのか「マイナス」なのか?
プラスの効果をもたらすが、以前に比べ効果は縮小
-
2022年03月23日
ロシアのウクライナ侵攻で一気に不透明感が増した世界経済
-
2022年02月10日
ロシアによるウクライナ侵攻の裏側にあるもの
ゼレンスキー・ウクライナ大統領の誤算
-
2022年03月17日
FOMC 想定通り、0.25%ptの利上げを決定
ドットチャートは2022-24年にかけて、計10.5回分の利上げを予想