サマリー
中国社会科学院人口・労働経済研究所が2015年12月に発表した「人口と労働緑書-中国人口と労働問題報告No16」(主編:蔡昉、張車偉)によると、中国の生産年齢(15歳~59歳)人口は2011年の9.41億人をピークに減少し、2023年には9億人以下に、2050年には6.51億人に急減するとしている。生産年齢人口が全人口に占める割合は7割弱から5割に急低下する計算である。
「緑書」では、65歳以上の人口が全人口に占める割合が7%から14%に上昇するのに要する期間について、世界平均は40年前後であるのに対して中国は23年程度、14%から21%へ上昇する期間は同様に、平均の50年前後に対して中国は12年~13年程度であるとしている。急速な少子高齢化の進展である。
人口ボーナス値は、一般に、生産年齢人口÷従属人口(14歳以下人口+65歳以上人口)で計算される。これが高いと、働き手が多い一方で、養育費のかかる子どもと、年金・医療の社会負担の大きい高齢者が少ない状態であり、人口ボーナス値の上昇により、経済には、労働投入量の増加、社会負担の減少、貯蓄率の上昇といったプラスの効果が期待される。しかし、少子高齢化の進展でこの歯車は逆回転していく。すなわち、労働投入量の減少、高齢者社会負担の増加、貯蓄率の低下が、経済成長を押し下げるのである。中国では2010年前後に人口ボーナス期が終わり、人口オーナス期に入っているが、そのマイナスの効果は今後ますます大きくなっていくことが想定される。

今後は少子化の進展をより緩やかにすることと、少子高齢化のマイナスの影響を如何にして小さくすることができるかが大きな鍵を握る。
少子化対策として、生育制限の完全撤廃と生育「奨励」への転換が不可欠であることは言うまでもないが、まずは「二人っ子政策」の効果最大化である。夫婦のいずれか一方が一人っ子の場合、第二子の生育を認めるという、2013年11月の条件緩和により、全国で1,100万組の夫婦に第二子の生育が認められるようになったが、第二子生育の申請を出したのは、このうちの15.4%にあたる169万組(2015年8月末)にとどまっているのが現状である。都市部では、住宅価格や教育費の高騰や、ライフスタイルの変化による未婚比率の上昇や晩婚化など、「一人っ子政策」以外の出生率低下要因も多い。今後は、こうした問題への政策対応が必要とされているのである。
次は、質の高い労働力を如何にして確保するかという問題である。「人口ボーナスがなくなる以上、イノベーションがなければ発展はできない」とは、「緑書」の主編者である蔡昉・社会科学院副院長の言葉である。産業構造の高度化を担い得る労働力の質的向上(例えば高等教育や職業訓練の充実)が極めて重要となる。この他、持続的な社会保障制度の構築や退職年齢の引き上げなども同時並行で行われなければならないだろう。
以上は経済の供給面から見たものであるが、生産年齢人口が大きく減少すること自体を変えることはできない。需要面でもマイナスのインパクトをできるだけ小さくする政策の実行が求められる。「緑書」は「新型都市化の積極推進と本当の意味でのヒトの都市化」を今後の消費需要の底上げ、ひいては牽引役として特に重要視している。中国の都市化率は2014年末で54.8%であるが、これは6ヵ月以上の常住人口で計算したものであり、都市戸籍保有者の割合は38%にすぎない。この差が農民工(農村からの出稼ぎ者)である。
現状では農民工には都市での社会保障(年金、医療)は提供されず、本来なら無料であるはずの子どもの義務教育も有料であるなど、都市住民としての公共サービスを享受できていない。例えば、2014年末時点では、2億7,395万人の農民工のうち実に83.3%が年金に未加入となっている。農民工が真の市民として、都市に定住、就職、起業できるようにし、就業サービスと社会保障などを平等に受けられるようにするのが「新型都市化」と呼ばれる概念である。
2015年12月14日に開催された中国共産党中央政治局会議は、2016年の経済運営を議論し、このなかで不動産過剰在庫の解消を重点政策の一つに掲げた。同会議では、農民工の市民化など「新しい市民」のニーズを満たすことを出発点とする住宅制度改革を推進するとしている。これまで住宅購入層として蚊帳の外に置かれていた農民工が住宅購入支援策の対象となることは、実需増加の面でも注目されよう。
上記は一例であるが、仮寓の農民工としてではなく、真の市民化が実現すれば、中国の内需が厚みを増していくことになる。今後打ち出される政策に注目したい。
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