サマリー
◆これまで中国の国際収支は経常収支黒字と金融収支(外貨準備の変動除く)黒字という双子の黒字の状態が続いてきたが、2014年第2四半期以降、金融収支赤字が恒常化している。中国企業の対外投資の拡大も赤字恒常化の要因の一つだが、対内投資(中国の海外からの資金調達)にも変化が起きている。
◆対内投資の変化として、第一に、海外金融機関等からの貸出の減少が著しい。中国向け貸出は短期のものが多く、満期が到来した貸出がロールオーバーされずに流出したものと考えられる。対内債券投資も減少している。他方で、中国企業等が海外で発行する国際債券は増加している。近年は、オフショア人民元債の発行が注目されるが、実際には中国籍企業がSPVを設立し、大量のドル建て債券を発行している傾向が見受けられる。また、新規投資や増資は堅調なものの、外資企業の事業清算に伴う資金流出や、対内再投資収益といった投資先の中国現地企業の資本減少を背景に、対内直接投資も減少している。
◆以上を概括すれば、足元の中国の海外資金調達の構造は、中国向け短期貸出が主因となり、今後も資金流出が発生しやすい構造といえる。また、対内再投資収益等が今後も低水準で推移する可能性もある。結果、資金不足の穴埋めをするため、国際債券の発行増加や、国内銀行貸出への依存を強める可能性も考えられる。中国の民間企業の対外純資産はマイナス(負債超過)となっていることもあり、国際金融市場でのドル供給が減少すれば、資金調達に困難が生じうる脆弱性を抱えていると言えよう。
◆そのため、今後は上記のような海外からの資金調達構造が有するリスクをいかに軽減していくかが課題となろう。例えば、中国当局が、比較的長期の資金である対内直接投資を増やすために、自由貿易試験区でのネガティブリストの項目縮小や、投資の際の事務手続きの簡便化を全国レベルで適用するといった対応を継続できるかが試されよう。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
同じカテゴリの最新レポート
-
中国経済見通し:内需不振で強まる減速傾向
2026年は自動車販売台数も急減速(あるいは減少)か
2025年09月24日
-
中国:力不足、あるいは迷走する政策と景気減速
依然不透明なトランプ関税2.0の行方
2025年08月22日
-
中国:年後半減速も2025年は5%前後を達成へ
不動産不況、需要先食い、トランプ関税2.0の行方
2025年07月22日
最新のレポート・コラム
-
働く低所得者の負担を軽減する「社会保険料還付付き税額控除」の提案
追加財政負担なしで課税最低限(年収の壁)178万円達成も可能
2025年10月10日
-
ゼロクリックで完結する情報検索
AI検索サービスがもたらす情報発信戦略と収益モデルの新たな課題
2025年10月10日
-
「インパクトを考慮した投資」は「インパクト投資」か?
両者は別物だが、共にインパクトを生むことに変わりはない
2025年10月09日
-
一部の地域は企業関連で改善の兆し~物価高・海外動向・新政権の政策を注視
2025年10月 大和地域AI(地域愛)インデックス
2025年10月08日
-
政治不安が続くアジア新興国、脆弱な中間層に配慮した政策を
2025年10月10日
よく読まれているリサーチレポート
-
第226回日本経済予測(改訂版)
低成長・物価高の日本が取るべき政策とは?①格差問題、②財政リスク、を検証
2025年09月08日
-
聖域なきスタンダード市場改革議論
上場維持基準などの見直しにも言及
2025年09月22日
-
今後の証券業界において求められる不正アクセス等防止策とは
金融庁と日本証券業協会がインターネット取引の新指針案を公表
2025年09月01日
-
日本経済見通し:2025年9月
トランプ関税で対米輸出が大幅減、製造業や賃上げ等への影響は?
2025年09月25日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
第226回日本経済予測(改訂版)
低成長・物価高の日本が取るべき政策とは?①格差問題、②財政リスク、を検証
2025年09月08日
聖域なきスタンダード市場改革議論
上場維持基準などの見直しにも言及
2025年09月22日
今後の証券業界において求められる不正アクセス等防止策とは
金融庁と日本証券業協会がインターネット取引の新指針案を公表
2025年09月01日
日本経済見通し:2025年9月
トランプ関税で対米輸出が大幅減、製造業や賃上げ等への影響は?
2025年09月25日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日