サマリー
10月19日に北京の人民大会堂で開催された「2015北京新興市場フォーラム」では、中国社会科学院の蔡昉・副院長が「都市と農村で分断されている戸籍制度を改革することによって中国の潜在成長率は1~2%ポイント高まる」旨のスピーチを行い、注目された。蔡昉氏の発言要旨は以下の通りである。
- 都市化は経済成長の原動力である。中国の都市化率(都市人口比率)は54%に達しているが、これは6ヵ月以上の常住人口で計算したものであり、都市戸籍保有者の割合は38%にすぎない。この差が農民工(農村からの出稼ぎ者)である。
- ここ数年、農民工の増勢は鈍化し、2014年は前年比1.3%増、2015年1月~6月は前年同期比0.1%増にとどまった。農民工全体に占める40歳以上の割合は2008年の30%から2014年には43.5%に高まり、今後、農村に戻ることを選択する農民工が大きく増える可能性がある。
- こうした動きは都市化の進展に悪影響を与え、都市化率の低下につながる可能性がある。従って、農民工が真の市民として、都市に定住、就職、起業できるようにし、就業サービスと社会保障などを平等に受けられるようにする必要がある。これが「新型都市化」と呼ばれる概念である。
- 戸籍制度改革は極めて重要な「改革ボーナス」のひとつである。都市の労働力の供給を増やし、中国全体の資源配分の効率性を高め、内需の牽引役となる。戸籍制度改革によって将来の潜在成長率を1~2%ポイント、あるいはそれ以上押し上げることができる。
- 戸籍制度改革のコストは中央・地方政府、社会・企業・個人の間で合理的に分担するようにしなければならない。改革ボーナスの分配も然りである。
当然のことながら戸籍制度改革は「言うは易し行うは難し」であり、蔡昉氏も「潜在成長率の押し上げは、実際に改革を推進してはじめて現実となる」と釘を刺すことを忘れていない。農民工には都市での社会保障(年金、医療)は提供されず、本来なら無料であるはずの子どもの義務教育も有料であるなど、都市住民としての公共サービスを享受できていない。例えば、6ヵ月未満の都市滞在者を含めた2億7,395万人の農民工のうち実に83.3%が年金に未加入という現状(2014年末時点)をどう改善していくのか。課題は重く大きい。
戸籍制度改革を伴う真の都市化が進展すれば、内需が厚みを増していく。10月26日~29日の五中全会では、2016年から始まる第13次5ヵ年計画が討議される(計画の発表は2016年3月の全人代まで待たなければならない)。習近平・李克強政権下で初めての5ヵ年計画で戸籍制度改革についてどのような方針・政策が示されるかにも注目したい。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
同じカテゴリの最新レポート
-
中国:内巻(破滅的競争)と上乗せ関税の行方
追加関税大幅引き下げでも製造業PMIは50割れが続く
2025年06月24日
-
中国:関税引き下げを受け、見通しを上方修正
25年は3.9%→4.8%、26年は4.0%→4.2%に上方修正
2025年05月23日
-
中国:関税115%引き下げ、後は厳しい交渉へ
追加関税による実質GDP押し下げ幅は2.91%→1.10%に縮小
2025年05月13日
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
日本経済見通し:2025年4月
足元の「トランプ関税」の動きを踏まえ、実質GDP見通しなどを改訂
2025年04月23日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
-
信用リスク・アセットの算出手法の見直し(確定版)
国際行等は24年3月期、内部モデルを用いない国内行は25年3月期から適用
2022年07月04日
-
「反DEI」にいかに立ち向かうか
米国における「DEIバックラッシュ」の展開と日本企業への示唆
2025年05月13日
-
中国:関税115%引き下げ、後は厳しい交渉へ
追加関税による実質GDP押し下げ幅は2.91%→1.10%に縮小
2025年05月13日
日本経済見通し:2025年4月
足元の「トランプ関税」の動きを踏まえ、実質GDP見通しなどを改訂
2025年04月23日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
信用リスク・アセットの算出手法の見直し(確定版)
国際行等は24年3月期、内部モデルを用いない国内行は25年3月期から適用
2022年07月04日
「反DEI」にいかに立ち向かうか
米国における「DEIバックラッシュ」の展開と日本企業への示唆
2025年05月13日
中国:関税115%引き下げ、後は厳しい交渉へ
追加関税による実質GDP押し下げ幅は2.91%→1.10%に縮小
2025年05月13日