サマリー
2015年11月~12月にパリで開催が予定される国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)を前に、中国が温室効果ガス排出の削減目標を発表した。具体的には、①2030年前後にCO2排出総量がピークとなることを目標とし、より早期にピークを迎えるように最大限努力する、②2030年までにGDP当たりのCO2排出量を2005年比で60%~65%削減する、③2030年までにエネルギー消費に占める非化石燃料の割合を20%に増やす、④2030年までに森林蓄積量を2005年比で45億㎥増加させる、ことを目標に掲げた。ちなみに、主要先進国のCO2削減目標は、日本は30年までに2005年比25%減、米国は25年までに同26%~28%減、EUは30年までに同35%減と、排出量そのものを大幅に減らすことになっている。
中国のCO2排出量が世界全体に占める割合は、2012年時点で26%と最大である。その中国のCO2排出量が2030年前後まで増え続けるのは世界にとって脅威であり、可能な限り早い時期でのピークアウトが望まれるのは言うまでもない。ただし、中国にしてみれば、経済政策運営のトップ・プライオリティは雇用安定であり、ある程度の経済成長の維持を最優先に、CO2を鋭意削減していくということなのであろう。
中国が掲げる目標は実現不可能ではない。2014年までにGDP当たりのCO2排出量は2005年比で33.8%削減され、森林蓄積量は第6回全国森林資源調査(1999年~2003年)の124.6億㎥から第8回(2009年~2013年)には151.4億㎥へと26.8億㎥増加した。
中国は2014年前後からCO2排出量削減への取り組みを強化している。2014年5月には国務院(内閣)が「2014年~2015年の省エネ・排出削減低炭素発展行動方案」を発表し、GDP当たりのCO2排出量を2014年は4%、2015年は3.5%以上削減するとした。さらに、2015年1月1日に環境保護法(改訂版)が発効。環境保護部による取締権限が強化され、違法工場の閉鎖や関連物品の押収、刑事拘留等に関する権限が認められ、罰金額の上限が撤廃されたこと、環境汚染に関して適切な対応をしない行政部門に対して、責任を追及することなどが明記された。
2014年以降、特に2015年上半期は、GDP当たりのCO2排出量削減は大きく進展したのではないか(2014年の削減率はまだ発表されていない)。上記のような取り組み強化もさることながら、固定資産投資(特に不動産開発投資)の減速により、鉄鋼、セメントなど電力消費量の多い産業の生産が低迷し、それが石炭燃焼の抑制を通じてCO2排出量削減につながったとみられるためである。景気が悪くなると削減率が高まり、(投資主導で)景気が良くなると削減はままならないのが、中国のこれまで辿ってきたパターンである。
今後、中国は景気が底打ちから回復に向かうなかでも、GDP当たりのCO2排出量を削減し続けなければならない。まずは、エネルギー効率が低く汚染物質を多く排出する設備については、従来のような一時休止ではなく、「廃棄」がしっかりと実施される必要がある。それに加えて、伝統的産業のアップグレードや戦略的新興産業の発展、サービス産業の発展など産業構造の高度化など、当たり前の政策を愚直に進めることが求められている。
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