サマリー
◆景気下支えを目的に、中国政府はインフラ投資や民生改善のための投資を一段と加速させようとしている。国家発展改革委員会によると、2011年~2014年合計の軌道交通向けの投資額は8,600億元(年平均2,150億元)だったが、2015年は3,000億元以上を投じるという。6月17日に開催された国務院常務会議では、今後3年間で1,800万戸(年平均600万戸)の都市バラック地区の改修と1,060万戸の農村老朽家屋の改修・補強を行うとした。2013年7月時点では、2013年~2017年の5年間に1,000万戸(年平均200万戸)の都市バラック地区の改修を目標としており、今回の決定により、年間目標は3倍に引き上げられることになる。
◆問題は資金調達である。4兆元の景気対策が発動された当時の重要な資金調達手段には、銀行貸出に加え、潤沢な土地使用権譲渡収入と、地方政府融資平台(中国版第三セクター)によるシャドーバンキング経由の短期・高金利の資金調達があった。しかし、土地使用権譲渡収入は少なくとも短期的に、シャドーバンキング経由の資金調達は中期的にも多くを期待することはできない。
◆政府が大きな期待を寄せるのが、PPP(パブリック・プライベート・パートナーシップ:官民連携)による民間資本の導入である。しかし、民間資本にしてみれば、インフラ投資は投資金額が大きく、投資回収期間が長期化する上、政府による計画の変更・不履行リスクや投資回収計画の甘さ、公共料金改定の難しさなど、自らの経営努力では如何ともしがたい問題があり、それが投資に躊躇せざるを得ない要因となっている。
◆今後、投資をさらに増強する場合、その多くは中国政府との関係が密接な銀行からの貸出増加に頼らざるを得ず、それは既に始まっている。中国では、景気下振れリスクが高まるにつれて、「成長維持」に政策の重点が大きくシフトしている。その方法は、インフラ投資などの増強とそれを金融面で支える銀行貸出の増加という伝統的なものである。ある意味で政策は分かりやすくなったが、匙加減は難しい。やりすぎれば、効率の低い投資と無駄な借金(不良債権)の増加という、やはり中国が抱える伝統的な問題の先鋭化を招くだけである。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
関連のレポート・コラム
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
米金融政策を占うジャクソンホール会議の注目点は?
市場が期待するほどの大幅な利下げの示唆は期待しにくい
2024年08月16日
-
ハリス氏はトランプ氏に勝てるのか?そして、米国経済の行方は?
トランプ氏の優勢は継続、トランプ・リスクの発現は議会選挙とトランプ氏の匙加減次第
2024年08月02日
-
信用リスク・アセットの算出手法の見直し(確定版)
国際行等は24年3月期、内部モデルを用いない国内行は25年3月期から適用
2022年07月04日
-
「国債買入減額」と「追加利上げ」が長期金利と経済活動に与える影響は限定的か
2024年7月金融政策決定会合で日銀は金融緩和の縮小姿勢を明確化
2024年07月31日
-
「適温」なドル円相場は130円台?
ただし10円の円高で実質GDPは0.2%悪化
2024年08月14日
米金融政策を占うジャクソンホール会議の注目点は?
市場が期待するほどの大幅な利下げの示唆は期待しにくい
2024年08月16日
ハリス氏はトランプ氏に勝てるのか?そして、米国経済の行方は?
トランプ氏の優勢は継続、トランプ・リスクの発現は議会選挙とトランプ氏の匙加減次第
2024年08月02日
信用リスク・アセットの算出手法の見直し(確定版)
国際行等は24年3月期、内部モデルを用いない国内行は25年3月期から適用
2022年07月04日
「国債買入減額」と「追加利上げ」が長期金利と経済活動に与える影響は限定的か
2024年7月金融政策決定会合で日銀は金融緩和の縮小姿勢を明確化
2024年07月31日
「適温」なドル円相場は130円台?
ただし10円の円高で実質GDPは0.2%悪化
2024年08月14日