サマリー
主要先進国の中で、人民元ビジネスの先鞭をつけたのは日本であった。2011年12月の日中首脳会談における金融協力促進合意に基づき、2012年3月に日本政府による中国国債購入について中国政府が650億元の運用枠を認可し、同年6月1日には東京と上海の銀行間外国為替市場で、円と人民元の直接取引が開始された。
しかし、2012年9月以降の日中の政治関係悪化により、人民元の国際化にかかわる日中政府間の取り組みは停滞。日本政府による中国国債購入はいまだに実現していない。中国(上海)外国為替取引センターでの円・人民元取引は、2013年1月~3月のピーク(3,774億元)から足元では1/3程度に縮小している。東京市場における人民元決済銀行は指定されていないし、中国域外で保有されている人民元を中国国内の金融・証券市場に投資するRQFIIの枠も認可されていない。RQFII枠は、香港に2,700億元、台湾1,000億元、英独仏にそれぞれ800億元など、合計11ヵ国・地域に9,200億元に上るにもかかわらずである。
こうしたなか、2014年11月の北京におけるAPECで日中首脳会談がようやく実現した。日中間の政治・経済関係の改善機運が高まっているが、人民元ビジネスはトップ外交の手土産と化していただけに、巻き返しへの期待は大きい。
大和総研・日本経済研究センター・みずほ総合研究所の共同提言「東京金融シティ構想の実現に向けて」(2014年5月16日)では、アジアの金融ハブに向けた市場インフラ整備を提言のひとつに掲げた。人民元建て金融商品に対するニーズの拡大を取り上げ、人民元決済銀行の設置を検討すべきとしている。
円・人民元の直接取引が拡大し、東京市場での人民元オフショア市場が厚みを持つようになれば、取引コストや為替リスクのさらなる低下、資金調達・運用手段の拡大など、日本企業にもメリットがもたらされる。さらに、円の利用拡大、金融商品・サービスの多様化・拡大は、日本の金融機関の収益機会の増大や円のプレゼンス向上など、東京の金融市場の活性化につながる可能性がある。
日本としては、人民元の国際化による円の地位低下を懸念するのではなく、これを如何にして日本企業の収益拡大や「円の国際化」の進展につなげていくかが重要であろう。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
同じカテゴリの最新レポート
-
中国:来年も消費拡大を最優先だが前途多難
さらに強化した積極的な財政政策・適度に緩和的な金融政策を継続
2025年12月12日
-
中国:四中全会、関税、そして日中関係悪化
米関税下げで2026年の経済見通しを上方修正、ただし内需は厳しい
2025年11月25日
-
【更新版】中国:100%関税回避も正念場はこれから
具体的な進展は「フェンタニル関税」の10%引き下げにとどまる
2025年11月04日
最新のレポート・コラム
-
中国:来年も消費拡大を最優先だが前途多難
さらに強化した積極的な財政政策・適度に緩和的な金融政策を継続
2025年12月12日
-
「責任ある積極財政」下で進む長期金利上昇・円安の背景と財政・金融政策への示唆
「低水準の政策金利見通し」「供給制約下での財政拡張」が円安促進
2025年12月11日
-
FOMC 3会合連続で0.25%の利下げを決定
2026年は合計0.25%ptの利下げ予想も、不確定要素は多い
2025年12月11日
-
大和のクリプトナビ No.5 2025年10月以降のビットコイン急落の背景
ピークから最大35%下落。相場を支えた主体の買い鈍化等が背景か
2025年12月10日
-
12月金融政策決定会合の注目点
2025年12月12日
よく読まれているリサーチレポート
-
日本経済見通し:2025年10月
高市・自維連立政権の下で経済成長は加速するか
2025年10月22日
-
非財務情報と企業価値の連関をいかに示すか
定量分析の事例調査で明らかになった課題と今後の期待
2025年11月20日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
-
第227回日本経済予測
高市新政権が掲げる「強い経済」、実現の鍵は?①実質賃金引き上げ、②給付付き税額控除の在り方、を検証
2025年11月21日
-
グラス・ルイスの議決権行使助言が大変化
標準的な助言基準を廃し、顧客ごとのカスタマイズを徹底
2025年10月31日
日本経済見通し:2025年10月
高市・自維連立政権の下で経済成長は加速するか
2025年10月22日
非財務情報と企業価値の連関をいかに示すか
定量分析の事例調査で明らかになった課題と今後の期待
2025年11月20日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
第227回日本経済予測
高市新政権が掲げる「強い経済」、実現の鍵は?①実質賃金引き上げ、②給付付き税額控除の在り方、を検証
2025年11月21日
グラス・ルイスの議決権行使助言が大変化
標準的な助言基準を廃し、顧客ごとのカスタマイズを徹底
2025年10月31日

