サマリー
2014年に入って中国の住宅市場は調整を余儀なくされている。1月~6月の商品住宅販売面積は前年同期比9.2%減だった。6月の住宅価格上昇率は前年同月比+4.2%と、昨年12月の同+9.9%から上昇ペースが大きく鈍化している。販売金額が住宅価格に3ヵ月~9ヵ月先行することを考えると、少なくとも今後住宅価格が一時的にせよ下落することは想定しておくべきであろう。
北京で複数の専門家にヒアリングしたところ、今後の見通しは真っ二つに分かれた。
供給過剰問題に注目する識者は調整が数年にわたると懸念している。中国の住宅販売在庫は10ヵ月程度が適正水準とされる。確かに2級~4級の地方都市では、その3倍~4倍に相当する30ヵ月~40ヵ月以上の在庫を抱えるところも少なくない。一方で、北京市、上海市、広州市の三大都市の在庫は15ヵ月以下と、そう長期間の在庫調整は必要としていない。
もう一方は、住宅購入層の厚みに注目する。中国ではマイホームの購入年齢は平均31歳である。ずいぶん若いと感じるかもしれない。住宅ローンの頭金比率は4割~5割と高いが、その頭金は親から出してもらえるケースも多いのだという。国連の統計によると、中国の30歳~34歳人口は、2010年から2015年の5年間で11.1%増加し、さらに2015年から2020年では26.8%増加する。これがピークとなり、その後の5年間では19.5%の減少となる。つまり住宅需要が最も強い年齢層は2020年前後までは増え続け、ここまでを住宅販売の黄金期とみる向きも多い。こうした人々は、今回の調整も過去と同様に比較的短期間で収束するとみる。ただし、住宅購入層の人口の多寡に注目する識者は、住宅の供給に関してはあまり注意を払っていない。
現実は、上記の在庫の調整具合と住宅購入層(需要)の増加、そして需要に即した供給、さらには政策動向などが複雑に絡み合っていくのだろう。政策動向に関連して、一部都市が住宅購入制限を緩和し、複数の住宅購入を解禁する動きをみせているが、価格が下向きの時には様子見が広がるため、即効性はあるまい。
結局のところ需要が旺盛で在庫水準がさほど積み上がっていない大都市の価格調整は短期間で終了し、そうでないところは調整が長期化するため、住宅市場は二極化に向かおう。前者が住宅市場の全面的な大幅調整を回避する下支えとなるのではないか。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
関連のレポート・コラム
最新のレポート・コラム
-
米GDP 前期比年率+2.8%と加速
2024年4-6月期米GDP:内需主導での堅調さを維持
2024年07月26日
-
監査・ガバナンス強化へ回帰する英国
昨年撤回した監査強化方針を復活し、ガバナンス・コードも厳格化へ
2024年07月25日
-
女性がキャリアを築ける職場ほど、子どもを持ちやすい
健保組合ごとの被保険者・被扶養者の出生率と、その要因の多変量解析
2024年07月24日
-
GX経済移行債に期待されるインパクトレポーティング
~GXの理解醸成促進に向けて~『大和総研調査季報』2024年夏季号(Vol.55)掲載
2024年07月24日
-
盛り上がりに欠ける英国の政権交代
2024年07月26日
よく読まれているリサーチレポート
-
「国債買入減額+利上げ」だけで長期金利は2%超えか
シナリオ別に見た日銀の国債買入減額による長期金利への影響試算
2024年06月12日
-
信用リスク・アセットの算出手法の見直し(確定版)
国際行等は24年3月期、内部モデルを用いない国内行は25年3月期から適用
2022年07月04日
-
第221回日本経済予測(改訂版)
賃上げ・物価高の先にある経済の姿と課題は?①賃上げ効果、②貿易デジタル赤字、③トランプリスク、を検証
2024年06月10日
-
「事業性融資の推進等に関する法律案」概要
事業性に着目した企業価値担保権の創設
2024年05月30日
-
バーゼルⅢ最終化による自己資本比率への影響の試算
標準的手法採用行では、自己資本比率が1%pt程度低下する可能性
2024年02月02日
「国債買入減額+利上げ」だけで長期金利は2%超えか
シナリオ別に見た日銀の国債買入減額による長期金利への影響試算
2024年06月12日
信用リスク・アセットの算出手法の見直し(確定版)
国際行等は24年3月期、内部モデルを用いない国内行は25年3月期から適用
2022年07月04日
第221回日本経済予測(改訂版)
賃上げ・物価高の先にある経済の姿と課題は?①賃上げ効果、②貿易デジタル赤字、③トランプリスク、を検証
2024年06月10日
「事業性融資の推進等に関する法律案」概要
事業性に着目した企業価値担保権の創設
2024年05月30日
バーゼルⅢ最終化による自己資本比率への影響の試算
標準的手法採用行では、自己資本比率が1%pt程度低下する可能性
2024年02月02日