サマリー
中国人民銀行は2014年2月17日~18日に、2014年のクロスボーダー人民元業務に関する会議を開催し、①人民元のクロスボーダー使用を引き続き拡大させ、関連政策を整備する、②通貨スワップ協定の活用により、相互資金移動のツールを拡充する、③人民元による資本項目取引の推進を加速し、クロスボーダー資本移動の管理方式を確立する、④人民元レートの形成メカニズムを改善し、秩序立って為替レートの変動幅を拡大する、ことなどを重点項目に掲げた。
こうした方針は既に2013年11月の中国共産党第18期中央委員会第三回全体会議(三中全会)で発表されているが、「全面的改革深化」は2020年までに決定的な成果を上げるとされ、具体的なスケジュールへの言及はなかった。今回、2014年の重点項目として人民元レートの変動幅拡大が明示されたことで、現在、当日朝当局が発表する基準レートの±1.0%となっている対米ドルレートの一日の変動幅が、近々拡大される可能性が高まった。ちなみに、対米ドルの変動幅は2005年7月以降の±0.3%から、2007年5月に±0.5%に、2012年4月には±1.0%に拡大されている。
一部には、これにより元高が加速するとの期待が強いが、変動幅拡大との因果関係はない。これは基準レートに対するその日一日の変動幅が拡大されるにすぎず、当日の終値が翌日の基準レートに反映されるわけではないためである。例えば、当日の終値が朝発表された基準レートに対して1%の元高で引けても、翌日の基準レートは元安に設定することも可能であり、基準レートの決定は当局の思惑次第となっている。つまり、変動幅拡大によってもたらされるのは、その日一日のボラティリティの増大である。人民元レートの市場化が大きく進展したとの判断は、その日の終値が翌日の基準レートにきちんと反映されるか、あるいは「基準レート」制度そのものが撤廃されてからとなろう。
中国人民銀行が「市場の需給に基づいて、通貨バスケットを参考に調整する管理フロート制」を導入した2005年7月21日以降で、元高が加速したのは、輸入物価が大きく上昇したときに限られる(特に2007年~2008年)。元高誘導の目的は物価安定であり、足元、そして当面の間、少なくとも元高が加速する状況にはない。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
同じカテゴリの最新レポート
-
中国:トランプ関税2.0で25年は3.9%成長へ
迂回輸出は当面温存。「トランプ関税2.0」の長期化は想定せず
2025年04月23日
-
中国:米国の対中追加関税率は累計104%→145%、中国経済への悪影響はほぼ変わらず
中国は交渉(ディール)の用意があることを示唆
2025年04月11日
-
中国:米国の104%追加関税、悪影響には天井
累計104%の追加関税で中国の実質GDPを2.84%押し下げ
2025年04月09日
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
トランプ関税で日本経済は「漁夫の利」を得られるか?
広範な関税措置となっても代替需要の取り込みで悪影響が緩和
2025年03月03日
-
地方創生のカギとなる非製造業の生産性向上には何が必要か?
業種ごとの課題に応じたきめ細かい支援策の組み合わせが重要
2025年03月12日
-
中国:全人代2025・政府活動報告を読み解く
各種「特別」債で金融リスク低減と内需拡大を狙う
2025年03月06日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
-
2025年の日本経済見通し
1%台半ばのプラス成長を見込むも「トランプ2.0」で不確実性大きい
2024年12月20日
トランプ関税で日本経済は「漁夫の利」を得られるか?
広範な関税措置となっても代替需要の取り込みで悪影響が緩和
2025年03月03日
地方創生のカギとなる非製造業の生産性向上には何が必要か?
業種ごとの課題に応じたきめ細かい支援策の組み合わせが重要
2025年03月12日
中国:全人代2025・政府活動報告を読み解く
各種「特別」債で金融リスク低減と内需拡大を狙う
2025年03月06日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
2025年の日本経済見通し
1%台半ばのプラス成長を見込むも「トランプ2.0」で不確実性大きい
2024年12月20日