サマリー
2013年9月8日、中国の商務部などが2012年の中国対外直接投資統計公報を発表した。実績はフローが878億ドル、ストックが5,319億ドルと、過去最高を更新した。特にフローに関しては国連貿易開発会議(UNCTAD)が発表した2013年世界投資報告において、世界第3位と順調に順位を上げている。
内訳をみると、非金融業の対外直接投資残高の6割が国有企業であり、鉱業・電力などの公共インフラ投資に傾倒した新興国への投資スタイルに大きな変化はない。国策で民間企業の成長を推進しているからには、民間企業の多種多様な対外進出の一層のサポートは課題として残っている。そして、中国の非金融業は、対外拠点へ中国人を前年比136%増の約78万人送り出しているとみられる。これは、中国企業による現地雇用者を上回る規模である。投資先が中国企業の雇用創出力をどう捉えるか微妙なところだ。
そして、何よりも注目したい点は、中国の対外投資の6割近くを受け入れる香港を除き、中国最大の投資先となっている米国への“投資スタイル”が変化してきたことである。これまでの卸売・小売業から金融業や資源・エネルギー業という米国が世界を制している所以とも言えるべき分野へ関心を移してきたのである。具体的には、中国の対米投資残高は、2010年時点で48.7億ドルだったが、2012年には170.8億ドルまで膨れ上がり、うち、金融業向けが、2010年の5億ドルから2012年は58億ドル、鉱業向けが同1.9億ドルから16.1億ドルへと大幅に増加した。特に中国国有資源会社は、北米のエネルギーの権益を買収したり、開発事業への提携を積極的に申し出たりしている。中国の資源確保の主戦場はアフリカや南米・豪州などだったが、今では覇権争いをしている相手国(米国)の領土にまで拡大している。
この実情を踏まえると、2013年5月に米国がTPP交渉への参加を中国に打診した背景には、中国の市場開放や関税の引き下げ以上に、投資協定や労働規約などでグローバルスタンダードの秩序ある管理を徹底するように釘を刺す意図も強いのではないだろうか。10月1日から8日にはTPPの延長上に位置するアジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)構想を掲げるAPECの会合が行われる。既成事実を積み上げる中国と、自国の保護のために警戒を強める米国。両国のせめぎ合いが1つの見どころになるだろう。
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