サマリー
2012年11月8日~14日に中国共産党第18回党大会が開催された。11月14日の党規約改正では、胡錦濤国家主席が提唱する「科学的発展観」を中国共産党の行動指針とすることを採択し、「エコ文明建設」が中国の特色ある社会主義事業の支柱の一つに加えられた。社会主義事業の支柱は、経済建設、政治建設、文化建設、社会建設の「四位一体」に、「エコ文明建設」を加えた「五位一体」とされる。背景は、言うまでもなく、資源制約の激化、環境汚染の深刻化、生態系の破壊という現状への危機感である。
2007年以降、中国は省エネ・省資源と汚染物質排出削減の取り組みを強化し、地方幹部評価における最大ウエイトとした。それでも、2010年までの第11次5ヵ年計画では、単位GDPに必要なエネルギー使用量削減率が目標を達することができなかった。中国は二酸化硫黄や二酸化炭素の最大排出国となっている。
経済力を背景とした資源・エネルギー外交も大きな困難に直面している。中国は開発資金や技術を提供するだけでなく、プロジェクトに必要な労働者も「輸出」。成果物は現地に設立された中国企業を通じてほぼ全量が中国に輸出されるため、現地の雇用を生まず、利益も落とさないとの批判がある。中国国内の資源・エネルギー開発は、原油生産が頭打ちで、これが海洋戦略強化の背景の一つとなって、外交的な軋轢を生んでいる。石炭資源は豊富であるが、燃焼による二酸化硫黄排出増加という問題を抱える。
結局のところ、「エコ文明建設」には、国内の徹底的な省エネ・省資源とクリーンエネルギーの開発強化、環境保護投資の増加が不可欠である。まずは、従来「一時休止」にとどまっていた老朽化・低効率設備の完全な廃棄である。中国で過剰設備の問題が指摘されて久しい。これまでは価格競争力を武器に輸出を大きく拡大させ、この問題を先送りにしてきたが、労働コストの急上昇などでこの戦略も見直しを余儀なくされよう。経済のサービス化の進展も重要である。さらに、資源の回収・再利用、余熱利用、土壌回復、大気・水質汚染の防止など具体的な技術の導入と広範囲な活用が求められる。中国が本気で省エネと環境保護に取り組むときこそ、日本の省エネ・環境技術が必要とされるのである。日中関係悪化の長期化は、中国の成長戦略にも暗い影を落とそう。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
同じカテゴリの最新レポート
-
中国:力不足、あるいは迷走する政策と景気減速
依然不透明なトランプ関税2.0の行方
2025年08月22日
-
中国:年後半減速も2025年は5%前後を達成へ
不動産不況、需要先食い、トランプ関税2.0の行方
2025年07月22日
-
中国:内巻(破滅的競争)と上乗せ関税の行方
追加関税大幅引き下げでも製造業PMIは50割れが続く
2025年06月24日
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
2025年度の最低賃金は1,100円超へ
6%程度の引き上げが目安か/欧州型目標の扱いや地方での議論も注目
2025年07月16日
-
2025年ジャクソンホール会議の注目点は?
①利下げ再開の可能性示唆、②金融政策枠組みの見直し
2025年08月20日
-
既に始まった生成AIによる仕事の地殻変動
静かに進む、ホワイトカラー雇用の構造変化
2025年08月04日
-
米雇用者数の下方修正をいかに解釈するか
2025年7月米雇用統計:素直に雇用環境の悪化を警戒すべき
2025年08月04日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
2025年度の最低賃金は1,100円超へ
6%程度の引き上げが目安か/欧州型目標の扱いや地方での議論も注目
2025年07月16日
2025年ジャクソンホール会議の注目点は?
①利下げ再開の可能性示唆、②金融政策枠組みの見直し
2025年08月20日
既に始まった生成AIによる仕事の地殻変動
静かに進む、ホワイトカラー雇用の構造変化
2025年08月04日
米雇用者数の下方修正をいかに解釈するか
2025年7月米雇用統計:素直に雇用環境の悪化を警戒すべき
2025年08月04日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日