サマリー
この改正でフォーカスされたのは、「民意の勝利」だった。改正草案では、課税最低額の引き上げが3000元に留まっていた。これに対し、全人代の公式サイトへ23万件を超える投書があり、35%が明確に反対し、48%が変更を要求していた。結果、控除前収入が2~3万元/月という、草案では「増税」が想定されていた人々は、僅かだが、減税を享受できることになった。
しかし、真の勝者は政府だろう。1600億元の減収という大きな譲歩をしたように見えるが、そもそも個人所得税が税収に占める割合は6~8%程度しかない。中国は、ジニ係数が社会の不安定化が懸念される警戒水準とされる0.40を超えるか否かで、国際社会の注目を浴びているが、10年は都市部で0.330(09年:0.335)、農村部で0.378(09年:0.385)と前年から改善を見せており、最低賃金の引き上げや政府の貧困層への補助金支給などが奏功していると思われる結果となった。しかし、ここにきて問題視されているのは、低所得者層と高所得者層に挟まれる人々の不満の高まりである。彼らは、最低賃金引き上げや最低生活手当て増加などの恩恵は受けられない一方で、高すぎる不動産価格ゆえに十分な住環境が確保しづらいなど、「政策難民」とも言える所得者層である。今回の個人所得税改正では、その層が減税の恩恵を受けやすい仕組みとなっている。彼らが溜め込んだ不満のガス抜きを行うことが、「国家安定にどれ程重要か」ということである。
政府が個人所得税改革にけりをつけたことで、今後は「房産税(個人への固定資産税)」に注目が移ろう。政府は、今年1月に上海市や重慶市で試験的に導入した房産税を、段階的に全国導入する方針であるが、「不動産価格抑制や税収増への期待だけが高くて、効果には疑問がある」との声も多い。単なる不動産投機抑制策としてではなく、富の再分配機能を強化するためにも、不動産に関する税制改革議論の活発化が必要であろう。
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