2024年04月23日
サマリー
◆2023年度に配当方針等を変更した企業は229社と、過去5年間で最も多い。2023年3月に東京証券取引所が上場企業に要請した「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」が、方針変更企業の増加を加速させている。
◆2022年1月から2024年3月までに352件あった変更の開示内容では、①新たに比率目標を設定(124件)、②既に採用している比率の目標値の引き上げ(96件)、③方針自体の変更(32件)が多い。方針自体の変更では、2023年10-12月期以降、配当性向等よりも業績(当期純利益)の影響が小さい株主資本配当率(DOE)への変更、総還元性向から配当性向への変更が増えている。
◆市場が配当方針等の変更をどのように評価しているのかを確認するため、開示した企業の株価に注目したところ、総じて好感されている。開示翌営業日の相対株価(対TOPIX)は、352件のうちの約7割にあたる244社が上昇し、23%相当の企業はTOPIXを10%超アウトパフォームした。さらに、開示から25営業日には31%の企業が10%超のアウトパフォームとなっており、市場からの高評価が持続している。
◆今後、企業の経営層を悩ます可能性があるのは、一度上げた比率の撤回や目標値の引き下げである。今回の集計では13件の事例があったが、このうちの9件は翌営業日の相対株価がアンダーパフォームしている(開示から10営業日では10件がアンダーパフォーム)。市場は、設備投資などによって得られる利益の増加よりも、短期的には配当を好む状況にあるといえよう。
◆当面は、引き続き比率の目標を新設したり、目標値を引き上げたりする企業が増えると予想される。その中で注目されるのは、方針を変更する企業数、自社株買いへの姿勢、DOE採用等の変更内容である。企業が1年前に比べて自社株買いの効果が低くなったと考えているのか、また将来の業績への不安や「安定配当」志向の高まりでDOEの採用が増えるか等は、今後の企業の資金使途の変化を予想する上で重要な情報になろう。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
執筆者のおすすめレポート
-
「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」の開示と株価パフォーマンス
適時開示閲覧サービスを通じた開示企業の相対株価は概ね上昇
2024年01月17日
-
株主還元比率を明示した配当政策が広まる
TOPIX500採用銘柄の約6割が「比率」を有価証券報告書に記載
2023年09月25日
-
米国主要企業に見るキャッシュの使い道
「成長投資」や「高い株主還元」を志向する株価の上昇率が高い
2023年12月20日
関連のレポート・コラム
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
2025年の日本経済見通し
1%台半ばのプラス成長を見込むも「トランプ2.0」で不確実性大きい
2024年12月20日
-
「トランプ関税2.0」による日本経済への影響試算
中間財の出荷減や米国等の景気悪化で日本の実質GDPは最大▲1.4%
2024年12月18日
-
課税最低限「103万円の壁」引上げによる家計と財政への影響試算(第3版)
様々な物価・賃金指標を用いる案および住民税分離案を検証
2024年12月04日
-
長寿化で増える認知症者の金融資産残高の将来推計
金融犯罪を含む金融面の課題やリスクへの対応も重要
2024年12月20日
-
石破政権の看板政策「2020年代に最低賃金1500円」は達成可能?
極めて達成困難な目標で、地方経済や中小企業に過重な負担の恐れ
2024年10月17日
2025年の日本経済見通し
1%台半ばのプラス成長を見込むも「トランプ2.0」で不確実性大きい
2024年12月20日
「トランプ関税2.0」による日本経済への影響試算
中間財の出荷減や米国等の景気悪化で日本の実質GDPは最大▲1.4%
2024年12月18日
課税最低限「103万円の壁」引上げによる家計と財政への影響試算(第3版)
様々な物価・賃金指標を用いる案および住民税分離案を検証
2024年12月04日
長寿化で増える認知症者の金融資産残高の将来推計
金融犯罪を含む金融面の課題やリスクへの対応も重要
2024年12月20日
石破政権の看板政策「2020年代に最低賃金1500円」は達成可能?
極めて達成困難な目標で、地方経済や中小企業に過重な負担の恐れ
2024年10月17日