2023年12月20日
サマリー
◆日本と米国の主要企業について、当期純利益に対する配当や自社株買い実施金額の比率(総還元性向)を比べると、米国企業(S&P500)は日本企業(TOPIX500)よりも高い。2022年は米国S&P500構成企業が80.5%と日本のTOPIX500構成企業の43.2%を大きく上回っている(いずれも中央値)。配当性向では両者に大きな差はないものの、米国では自社株買いを実施する企業が多く、183社で総還元性向が100%を超えている(日本は53社)。一方、配当や自社株買いでの株主還元に消極的なS&P500構成企業も少なくない。総還元性向が10%以下の企業数は、TOPIX500の38社に対してS&P500は68社と多い。
◆米国の株式市場では、「成長投資」を重視した総還元性向の低いS&P500構成企業の株価が高く評価されている。2012年末から2023年11月末までの株価上昇率を総還元性向の水準別に見ると、総還元性向の低い企業(10%以下)が相対的に高く、次いで高い企業(100%超)となっている。
◆キャッシュの使い道にも日本と米国の主要企業に違いがある。S&P500構成企業は、TOPIX500構成企業に比べて設備投資等の有形固定資産に投じる比率は低い反面、M&A等の株式取得を含む投資有価証券やソフトウェア等の無形固定資産への投資ウェイトが高い。また、有利子負債を増やす一方で自社株買いを進める傾向もうかがえる。
◆日本の上場会社では、資本コストや株価、PBR1倍割れに対する経営層の意識は高まっている。米国と日本とでは環境が異なる部分はあるものの、グローバルな投資家とのコミュニケーションを想定する企業やPBR1倍割れ解消に向けた取組みとして「成長投資」や「株主還元の強化」が掲げる企業にとって、成長投資を志向する株主還元方針(低い総還元性向)であっても投資家から高く評価される米国企業が少なくなかったこと、自社株買いを通じた株主還元の強化など、米国主要企業の例に今後の利益配分のヒントは多い。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
同じカテゴリの最新レポート
-
株主還元に比率目標を掲げる主要企業が6割を超える
DOEは機械や化学で、累進配当は卸売業や銀行業での採用率が高い
2025年09月11日
-
特別配当・記念配当の動向と株価への影響
毎年1割程度が特別・記念配当を実施、株価押し上げ効果は短期的
2025年09月09日
-
意見分かれるグロース市場の上場維持基準見直し案
2025年9月に制度要綱が公表予定
2025年07月28日
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
2025年度の最低賃金は1,100円超へ
6%程度の引き上げが目安か/欧州型目標の扱いや地方での議論も注目
2025年07月16日
-
2025年ジャクソンホール会議の注目点は?
①利下げ再開の可能性示唆、②金融政策枠組みの見直し
2025年08月20日
-
既に始まった生成AIによる仕事の地殻変動
静かに進む、ホワイトカラー雇用の構造変化
2025年08月04日
-
米雇用者数の下方修正をいかに解釈するか
2025年7月米雇用統計:素直に雇用環境の悪化を警戒すべき
2025年08月04日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
2025年度の最低賃金は1,100円超へ
6%程度の引き上げが目安か/欧州型目標の扱いや地方での議論も注目
2025年07月16日
2025年ジャクソンホール会議の注目点は?
①利下げ再開の可能性示唆、②金融政策枠組みの見直し
2025年08月20日
既に始まった生成AIによる仕事の地殻変動
静かに進む、ホワイトカラー雇用の構造変化
2025年08月04日
米雇用者数の下方修正をいかに解釈するか
2025年7月米雇用統計:素直に雇用環境の悪化を警戒すべき
2025年08月04日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日