米国主要企業に見るキャッシュの使い道

「成長投資」や「高い株主還元」を志向する株価の上昇率が高い

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サマリー

◆日本と米国の主要企業について、当期純利益に対する配当や自社株買い実施金額の比率(総還元性向)を比べると、米国企業(S&P500)は日本企業(TOPIX500)よりも高い。2022年は米国S&P500構成企業が80.5%と日本のTOPIX500構成企業の43.2%を大きく上回っている(いずれも中央値)。配当性向では両者に大きな差はないものの、米国では自社株買いを実施する企業が多く、183社で総還元性向が100%を超えている(日本は53社)。一方、配当や自社株買いでの株主還元に消極的なS&P500構成企業も少なくない。総還元性向が10%以下の企業数は、TOPIX500の38社に対してS&P500は68社と多い。

◆米国の株式市場では、「成長投資」を重視した総還元性向の低いS&P500構成企業の株価が高く評価されている。2012年末から2023年11月末までの株価上昇率を総還元性向の水準別に見ると、総還元性向の低い企業(10%以下)が相対的に高く、次いで高い企業(100%超)となっている。

◆キャッシュの使い道にも日本と米国の主要企業に違いがある。S&P500構成企業は、TOPIX500構成企業に比べて設備投資等の有形固定資産に投じる比率は低い反面、M&A等の株式取得を含む投資有価証券やソフトウェア等の無形固定資産への投資ウェイトが高い。また、有利子負債を増やす一方で自社株買いを進める傾向もうかがえる。

◆日本の上場会社では、資本コストや株価、PBR1倍割れに対する経営層の意識は高まっている。米国と日本とでは環境が異なる部分はあるものの、グローバルな投資家とのコミュニケーションを想定する企業やPBR1倍割れ解消に向けた取組みとして「成長投資」や「株主還元の強化」が掲げる企業にとって、成長投資を志向する株主還元方針(低い総還元性向)であっても投資家から高く評価される米国企業が少なくなかったこと、自社株買いを通じた株主還元の強化など、米国主要企業の例に今後の利益配分のヒントは多い。

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