東京でのオフショア人民元建て債券市場の創設・育成に向けた課題

香港、ロンドン、シンガポールの比較を基に

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  • 経済調査部 研究員 中田 理惠
  • 政策調査部 主任研究員 神尾 篤史

サマリー

◆2014年11月に行われた日中財務相会談を機に、我が国政府により東京における人民元ビジネスの拡大に向けた道筋が模索されている。報道によれば、具体的な施策として東京でのオフショア人民元建て債券の発行が検討されている。本レポートでは、香港・ロンドン・シンガポールのオフショア人民元建て債券市場の現状を比較し、東京におけるオフショア人民元建て債券市場の創設・育成に向けた課題を検討する。


◆先行するロンドン、シンガポールにおけるオフショア人民元建て債券の発行状況をみると、国内企業による発行が少なく、中国系企業による発行が多くを占めている。国内企業による発行が進まない背景としては、香港と比較して①人民元の流動性が劣る、②獲得した人民元を中国本土に還流させるルートが少ないことが指摘される。東京においてオフショア人民元建て債券市場を創設するに当たっては、人民元建て貿易決済の促進等を通じた人民元の流動性の向上を図る必要があるほか、中国本土向け人民元建て融資等の人民元の還流ルートの拡充を行うことも必要であろう。加えて、市場の拡大を図るには主要な発行体である中国系企業による発行を促す必要があるといえる。


◆今後人民元の規制が緩和されていった場合、資金移動の自由化による中国本土とオフショア市場間の金利差の解消や、パンダ債の発行増加等が想定される。その結果、オフショア人民元建て債券の発行増加にブレーキがかかる可能性もある。東京におけるオフショア人民元建て債券市場を長期的に育成するためには、人民元の自由化が行われるまでに市場を一定規模に成長させることが必要といえる。


◆東京におけるオフショア人民元建て債券市場の創設には課題があるものの、我が国の対中貿易の規模に鑑みれば、東京にはオフショア人民元市場としての潜在性がある。東京におけるオフショア人民元建て債券市場の創設は東京の国際金融センターとしての地位向上のための有効な手立ての一つとなるだろう。

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