2012年09月24日
サマリー
◆今年2月に表面化した、AIJ投資顧問に運用委託した企業年金資産の大半が消失した問題(以下、AIJ問題)を契機に、年金制度や資産運用の在り方に関する様々な協議が、関係各省庁で行われてきた。本稿はその規制強化の内容に対して、特に年金運用における実務的な問題点等を指摘したい。
◆特に厚生労働省発表の「運用ガイドライン」の改正にある、“オルタナティブ投資のマネージャー投資の詳細調査(オペレーションリスクを含む)”には実務的な限界も指摘されている。現時点で年金基金が採用しているオルタナティブ投資の運用委託先の多くが海外籍(国外)であることを考えると、オフショアの複雑なストラクチャーの理解、カストディアンで保管されている現物証券や監査証明書の有無のチェックなど、相応の“知見”と“語学力”が必要となるためだ。
◆本年8月に大和総研が実施した年金基金への調査の中にも、今回の改正案を意識した回答がみられ、既に年金運用の現場に変化がみえつつある。今後は当該改正案を踏まえたパブリックコメントの発表等が待たれることとなるが、今回の規制変更の内容の大部分において、年金基金側に追加的にコストがかかる仕組みがあることには懸念があるといえるだろう。業界全体の精査が進むことは歓迎したいが、一回の年金資産消失問題のために、基金の加入員の負担が増加することに繋がることは極力避ける必要がある。規制変更の流れは今後も注目されているが、運用機関、年金基金とも良識的な対応に期待したい。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
執筆者のおすすめレポート
同じカテゴリの最新レポート
-
日銀のETF売却とスチュワードシップ責任
超長期投資家となる日銀のスチュワードシップ責任の果たし方
2025年09月26日
-
日本銀行がETF・J-REITの市場売却を決定
100年以上かけた超長期売却計画には備えが必要
2025年09月22日
-
聖域なきスタンダード市場改革議論
上場維持基準などの見直しにも言及
2025年09月22日
最新のレポート・コラム
-
働く低所得者の負担を軽減する「社会保険料還付付き税額控除」の提案
追加財政負担なしで課税最低限(年収の壁)178万円達成も可能
2025年10月10日
-
ゼロクリックで完結する情報検索
AI検索サービスがもたらす情報発信戦略と収益モデルの新たな課題
2025年10月10日
-
「インパクトを考慮した投資」は「インパクト投資」か?
両者は別物だが、共にインパクトを生むことに変わりはない
2025年10月09日
-
一部の地域は企業関連で改善の兆し~物価高・海外動向・新政権の政策を注視
2025年10月 大和地域AI(地域愛)インデックス
2025年10月08日
-
政治不安が続くアジア新興国、脆弱な中間層に配慮した政策を
2025年10月10日
よく読まれているリサーチレポート
-
第226回日本経済予測(改訂版)
低成長・物価高の日本が取るべき政策とは?①格差問題、②財政リスク、を検証
2025年09月08日
-
聖域なきスタンダード市場改革議論
上場維持基準などの見直しにも言及
2025年09月22日
-
今後の証券業界において求められる不正アクセス等防止策とは
金融庁と日本証券業協会がインターネット取引の新指針案を公表
2025年09月01日
-
日本経済見通し:2025年9月
トランプ関税で対米輸出が大幅減、製造業や賃上げ等への影響は?
2025年09月25日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
第226回日本経済予測(改訂版)
低成長・物価高の日本が取るべき政策とは?①格差問題、②財政リスク、を検証
2025年09月08日
聖域なきスタンダード市場改革議論
上場維持基準などの見直しにも言及
2025年09月22日
今後の証券業界において求められる不正アクセス等防止策とは
金融庁と日本証券業協会がインターネット取引の新指針案を公表
2025年09月01日
日本経済見通し:2025年9月
トランプ関税で対米輸出が大幅減、製造業や賃上げ等への影響は?
2025年09月25日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日