2011年12月01日
サマリー
◆日本では、高齢化に伴う貯蓄率低下が、経常収支を赤字化させ、財政赤字がファイナンスできるかという疑念につながっている。世界一の対外純資産があるが、経常収支赤字が対外純資産を連続的に減少させる負のスパイラルが生じることへの懸念もある。
◆米国は対外純債務国だが、所得収支は黒字でさらに黒字幅を拡大させている。所得収支(受取)の源泉となる対外資産では、エクイティ投資と外貨建て対外投資においてキャピタル・ゲインが発生し、資産規模の拡大につながっている。
◆日本も将来の所得収支の拡大につながるような対応が必要だろう。まず、対外資産の量的・質的拡大が求められる。国際比較の観点からは、対外資産の残高積み上げと、殊にリターン向上の余地があるとみられる。
◆日本の海外投資はデット性の債券投資等が中心だが、企業行動はすでに海外直接投資を進め、「輸出で稼ぐ」から「海外で稼いで日本に送金する」という構造変化が起きつつあると考えられる。
◆日本企業の海外進出が進む間も日本の輸出は減少していない。世界経済の影響を受けるという意味では、国内から輸出することも海外で生産することも同じであろう。ただし、海外で稼得した資金の日本送金は、GNI(かつてのGNP)を拡大させても、そのままではGDPの拡大要因ではない。
◆日本企業が海外で稼得した利益を、国内に送金し活用を促すインセンティブとして、人材育成や産業政策にも配慮が求められよう。国内に質の高い生産要素が揃うのであれば、国際的に少ない対内直接投資も促され、雇用拡大等につながるだろう。
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