将来の気候を予測するには、気候変化の要因である温室効果ガス(GHG)の濃度やエアロゾル(微粒子)の量等が、今後、どのように変化していくのかを前提条件として想定する必要がある。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)が取りまとめたRCP(Representative Concentration Pathways;代表的濃度パス)シナリオは、多くの研究者が利用可能で、実験結果を相互に比較できるように配慮されたシナリオである。日本からも多くの研究者が開発に携わり、研究プロセスや成果が公開されている(※1)。
RCPシナリオは、過去に検討された複数の社会経済シナリオを参考に導き出された、代表的な4つのシナリオから構成されている。括弧内の数値は放射強制力(単位:W/㎡)という物理指標で、正の値が大きいほど地表を暖める効果が高い。
- 「高位参照シナリオ(RCP8.5)」は、放射強制力の上昇が続き、2100年において8.5 W/㎡を超え、気温は工業化以前と比べて5℃程度上昇するシナリオである。2300年までのシナリオでは12 W/㎡に達する。
- 「高位安定化シナリオ(RCP6.0)」は、放射強制力が2100年までにピークを迎えず6.0 W/㎡に達するが、そこから2250年までに4.5 W/㎡に低下し安定化するオーバーシュートシナリオである。
- 「中位安定化シナリオ(RCP4.5)」は、放射強制力が2100年までに4.5W/㎡に安定化するシナリオである。
- 「低位安定化シナリオ(RCP2.6)」は、放射強制力が2100年以前に約3W/㎡でピークアウトし、その後減少して2100年頃には2.6W/㎡に低下するシナリオである。将来の気温上昇を工業化以前と比べて2℃以下に抑えるという目標や、2050年までにGHG排出量を50%削減する目標(※2)のもとに開発されたシナリオである。
RCPシナリオを、GHGの一つである二酸化炭素(CO2)濃度シナリオで表現したものが図である。

気候変動に関する研究成果を取りまとめたIPCC第5次評価報告書 第1作業部会報告書(2014年1月)では、従来のSRES(排出シナリオに関する特別報告)シナリオに代わり、RCPシナリオに基づく研究成果がまとめられている。SRESシナリオは人間活動のシナリオとして表現されたものだが、RCPシナリオはSRESシナリオでは考慮されていなかった政策的な緩和策(京都議定書等)を前提として、CO2濃度等の変化と土地利用変化(主に森林減少)に基づくシナリオとして表現されたものである。シミュレーションモデルの出力解析から、RCPシナリオで想定された放射強制力の範囲内の抑制を実現するためには、今後、人間活動からもたらされる化石燃料起源のCO2排出量をどの程度、削減しなければならないか等を求めることができるようになった。このような解析は、削減目標主導型の地球温暖化対策の立案に役立てることができる。気候科学の役割が、自然科学的根拠を示すことに加えて、環境政策の立案を支援する役割も担うようになっていることがわかる。
(※1)国立環境研究所「論文誌Climatic Changeに掲載されたIPCC第5次評価報告書に向けた代表的濃度パス(RCP)シナリオについて(お知らせ)」(2011年9月26日)
(※2)G8北海道洞爺湖サミット首脳宣言(北海道洞爺湖、2008年7月8日)
(2014年3月5日掲載)
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
関連のレポート・コラム
最新のレポート・コラム
-
働く低所得者の負担を軽減する「社会保険料還付付き税額控除」の提案
追加財政負担なしで課税最低限(年収の壁)178万円達成も可能
2025年10月10日
-
ゼロクリックで完結する情報検索
AI検索サービスがもたらす情報発信戦略と収益モデルの新たな課題
2025年10月10日
-
「インパクトを考慮した投資」は「インパクト投資」か?
両者は別物だが、共にインパクトを生むことに変わりはない
2025年10月09日
-
一部の地域は企業関連で改善の兆し~物価高・海外動向・新政権の政策を注視
2025年10月 大和地域AI(地域愛)インデックス
2025年10月08日
-
政治不安が続くアジア新興国、脆弱な中間層に配慮した政策を
2025年10月10日
よく読まれているリサーチレポート
-
第226回日本経済予測(改訂版)
低成長・物価高の日本が取るべき政策とは?①格差問題、②財政リスク、を検証
2025年09月08日
-
聖域なきスタンダード市場改革議論
上場維持基準などの見直しにも言及
2025年09月22日
-
今後の証券業界において求められる不正アクセス等防止策とは
金融庁と日本証券業協会がインターネット取引の新指針案を公表
2025年09月01日
-
日本経済見通し:2025年9月
トランプ関税で対米輸出が大幅減、製造業や賃上げ等への影響は?
2025年09月25日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
第226回日本経済予測(改訂版)
低成長・物価高の日本が取るべき政策とは?①格差問題、②財政リスク、を検証
2025年09月08日
聖域なきスタンダード市場改革議論
上場維持基準などの見直しにも言及
2025年09月22日
今後の証券業界において求められる不正アクセス等防止策とは
金融庁と日本証券業協会がインターネット取引の新指針案を公表
2025年09月01日
日本経済見通し:2025年9月
トランプ関税で対米輸出が大幅減、製造業や賃上げ等への影響は?
2025年09月25日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日