2013年09月30日
サマリー
9月27日、スウェーデンのストックホルムにおいて、IPCC(国連気候変動に関する政府間パネル)から、地球温暖化に関する「第5次評価報告書 第1作業部会報告書(自然科学的根拠)」が公表された(※1)。報告書によれば、地球温暖化の原因は人間活動の可能性が極めて高く、今世紀末に気温は最高で4.8度高く、海面水位は最大で82センチ上昇するとしている(図表)。本報告書は、国際機関や各国の環境・エネルギー政策決定者が政策を決定する際の科学的根拠の一つとして利用されることも多いため、その内容が注目されていた。

(出所)IPCC「第5次評価報告書 第1作業部会 報告書」から大和総研作成
IPCCは、1988年に世界気象機関(WMO)と国連環境計画(UNEP)によって設立された組織で、人間の活動が気候変動に与える影響や対策等に関して、科学的、技術的、社会経済学的な見地から、関係する科学論文の評価を行っている(※2)。地球温暖化に警鐘を鳴らしたという理由で過去にはノーベル賞も受賞している(※3)。活動内容は評価報告書として適時公表されており、今回は2007年以来、6年ぶり5回目の報告となる。
報告書は3部構成で、今回公表されたのは、地球温暖化の自然科学的根拠をまとめた第1作業部会の報告書である。予定では、2014年3月に横浜において、影響・適応(既に起こりつつある、あるいは起こりうる影響に対して、自然や人間社会のあり方を調整すること)・脆弱性をまとめた報告書、同4月にはドイツのベルリンにおいて、気候変動の緩和(地球温暖化の原因となる温室効果ガスの排出を削減する)策をまとめた報告書が公表されることになっている。
今回、公表された報告書は、前回、十分に検討されていなかった雲とエアロゾルが温暖化に及ぼす影響や、南極大陸やグリーンランドなどの氷床が海に流れ込むことによる海面上昇の効果、政策主導的な排出削減対策の効果などが考慮された2007年以降の研究成果が評価されてまとめられている。20世紀半ば以降に観測された世界平均気温の上昇のほとんどは、人為起源の温室効果ガスの増加によってもたらされた可能性が“極めて高い”と、これまでで最も強い言葉で表現されている(※4)。海面水位の変化に関しては、氷床が溶解する影響から2081~2100年には1986~2005年の平均に比べて26~82センチ上昇する可能性が高いとされており、前回の18~59センチよりも大きくなっている。気温に関しては0.3~4.8℃の上昇が予想され、前回の1.1~6.4℃よりも小さい。これは気候モデルの精度の向上によるものとされている。
今回の報告書が環境やエネルギー問題解決に向けた国際社会の合意をもたらすきっかけとなり、社会的な変革へとつながっていくことに期待したい。
(※1)IPCCウェブサイト「政策決定者向け要約」。本文は2014年1月公表予定。
(※2)IPCCウェブサイト
(※3) ノーベル財団ウェブサイト
(※4) “極めて高い”は、発生する可能性が95%を超える確率のことである。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
同じカテゴリの最新レポート
-
EUサステナ開示規制の域外適用見直しへ
米国とEUは関税合意の一部としてサステナ開示の域外適用を見直す
2025年09月12日
-
機械学習による有価証券報告書(2025年3月期)の人的資本開示の可視化
経営戦略と人事戦略の連動や、指標及び目標の設定に課題
2025年08月01日
-
サステナビリティWGの中間論点整理の公表
2027年3月期から順に有価証券報告書でのサステナビリティ開示拡充
2025年07月28日
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
2025年度の最低賃金は1,100円超へ
6%程度の引き上げが目安か/欧州型目標の扱いや地方での議論も注目
2025年07月16日
-
2025年ジャクソンホール会議の注目点は?
①利下げ再開の可能性示唆、②金融政策枠組みの見直し
2025年08月20日
-
既に始まった生成AIによる仕事の地殻変動
静かに進む、ホワイトカラー雇用の構造変化
2025年08月04日
-
米雇用者数の下方修正をいかに解釈するか
2025年7月米雇用統計:素直に雇用環境の悪化を警戒すべき
2025年08月04日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
2025年度の最低賃金は1,100円超へ
6%程度の引き上げが目安か/欧州型目標の扱いや地方での議論も注目
2025年07月16日
2025年ジャクソンホール会議の注目点は?
①利下げ再開の可能性示唆、②金融政策枠組みの見直し
2025年08月20日
既に始まった生成AIによる仕事の地殻変動
静かに進む、ホワイトカラー雇用の構造変化
2025年08月04日
米雇用者数の下方修正をいかに解釈するか
2025年7月米雇用統計:素直に雇用環境の悪化を警戒すべき
2025年08月04日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日