将来、どこで、誰が、どのくらいの量の温室効果ガス(GHG)を排出するのかという筋書きを排出シナリオという。排出シナリオは、人口変化、経済変化、技術変化、土地利用変化などの社会経済シナリオがベースとなって決まる。排出シナリオは気候モデルに適用され、起こりうる気温上昇、降水量変化、海面水位上昇などの気候変動を予測する研究に利用される。
排出シナリオの中でも、特にIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の「排出シナリオに関する特別報告(Special Report on Emission Scenarios)」(※1)をSRESシナリオと呼ぶ。SRESシナリオは、気候変動予測と、その影響および気候変動緩和策(GHG削減のことを緩和という)についてまとめたIPCC第4次評価報告書(※2)の土台になった排出シナリオである。IPCC第4次評価報告書は、国連気候変動枠組条約の締約国が地球温暖化対策の基本法や施策等を規定する際の根拠などに利用されている。
SRESシナリオのベースとなる社会経済シナリオは、経済とグローバリゼーションの2軸で構成され、4つ(2×2)のストーリーラインに分類されている。また、経済とグローバリゼーションを同時に指向する社会経済は、利用するエネルギー源によってさらに3つに分けられており、SRESシナリオは全部で6つのシナリオに整理されている(図表1)。将来を予想することは不確実性が高い作業であり、いずれのシナリオも実現可能性や政策の根拠に採用すべきなどの所見は示されておらず、全てのシナリオが同等に十分な根拠をもっていると考えるべきであるとされている。また、国連気候変動枠組条約の実施、あるいは京都議定書の削減目標の履行などはシナリオに含まれていない。
図表1 6つのSRESシナリオ
![図表1 6つのSRESシナリオ](/common/img/report/20130611_007299_01.gif)
A1(図表1の第2象限)は、地域間格差の大幅な縮小を伴う高度経済成長が続き、世界人口が21世紀半ばにピークに達した後に減少し、新しく効率の高い技術が急速に導入される未来社会を描いている。どのエネルギー源を重視するかで3つに分かれ、A1FIは化石エネルギー源重視、A1Tは非化石エネルギー源重視、A1Bは全てのエネルギー源のバランス重視を表している。A2(第1象限)の基本テーマは独立独行と地域独自性の保持である。出生パターンの地域間収斂は非常に穏やかで人口増加が続き、地域主導の経済開発は他のシナリオに比べて散在的で穏やかである。B1(第3象限)は、人口推移はA1と同様で、地域間格差が縮小した世界を描いている。物資に重点を置く度合いは減少し、クリーンで省資源の技術が導入される、サービス及び情報経済に向かった経済構造の急速な変化を伴う。経済、社会及び環境の持続可能性向上のための地球規模の問題解決に重点が置かれる。B2(第4象限)は、経済、社会及び環境の持続可能性向上のための、地域の問題解決に重点が置かれる世界を描いている。人口はA2よりは穏やかに増加を続け、経済発展は中間的なレベルにとどまり、多様な技術変化を伴う世界である。
IPCC第4次評価報告書の中では、6つのSRESシナリオに対する世界平均地上気温の上昇幅について、最良の推定値(best estimates)と可能性が高い予測幅(likely assessed uncertainty ranges)が報告されている(図表2)。例えば、最も低排出なB1シナリオに基づく上昇幅は、1.8℃(可能性が高い予測幅は1.1~2.9℃)で、最も高排出なA1FIシナリオでは、4.0℃(同2.4~6.4℃)と評価されている。
2013年~2014年にかけて公表予定のIPCC第5次評価報告書(※3)では、気候変動緩和策を導入したシナリオや適応策(気候変動へ対応することを適応という)を考慮した社会経済シナリオ等(※4)の新しいシナリオを土台にした研究成果が集められて公表される見込みである。
図表2 21世紀末における世界平均地上気温の昇温予測
![図表2 21世紀末における世界平均地上気温の昇温予測](/common/img/report/20130611_007299_02.gif)
(※1)IPCCウェブサイト
(※2)環境省ウェブサイト
(※3)IPCCウェブサイト
(※4)例えば、国立環境研究所と京都大学が共同研究しているアジア太平洋統合評価モデルが挙げられる
(2013年6月11日掲載)
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