「紛争鉱物」(conflict minerals)とは、アフリカ等の紛争地帯において採掘される鉱物資源を示す。産出国にとって貴重な外貨獲得源であるこれら鉱物も、紛争の資金となって内戦等を長引かせ、当該地域において人権侵害を惹起する側面が指摘されている。
米国では、紛争鉱物を背景とした人権問題に対する企業の取り組みを促す注目すべき動きが展開している。2010年7月に可決した米国金融改革法(ドッド=フランク・ウォール街改革および消費者保護に関する法律)により、自社製品に「紛争鉱物」を使用している企業(製造業)は、年次報告書において、その原産地について合理的な調査を踏まえて開示する義務を負うこととなっている(第1502条)。この開示に関する詳細な規則の制定は、米国証券取引委員会(SEC)に委任されていたが、作業は難航し、2012年8月にようやく採択に至った。紛争鉱物の開示規則は、アフリカ有数の鉱物資源国で長らく内戦が続いているコンゴ民主共和国(Democratic Republic of Congo=DRC)と周辺域に源泉を有するコルタン(タンタル鉱石)、錫(すず)石、金、鉄マンガン重石(タングステン鉱石)、又はそれらの派生物を「紛争鉱物」と定義し、紛争鉱物を使用する企業に対してSECへの報告および開示の義務を課す内容となっている。これらには、携帯電話、パソコン、航空機器等のハイテク分野をはじめ、装身具等、多くの製品に使われており、開示義務を負うことになる企業は数千社に及ぶとみられる。
SECが定めた開示規則では、開示の大まかなアウトラインとして、(1)自社製品に紛争鉱物を使用している製造業者が、SECに対して報告書を提出している場合、(2)紛争鉱物報告書(Form SD)において、当該鉱物がDRCおよびその隣接国の原産となっているかどうかを、(3)合理的な調査を踏まえて開示することとなっている。
ドッド=フランク法による開示義務は、SECに報告書を提出している企業であれば、外国企業にも適用される。既にSEC登録している本邦企業については、影響を直接受けることになるが、今回の開示規則が企業に対して鉱物の原産国に関する合理的な調査の実施を求めていることから、SEC登録していない本邦企業も、SEC登録企業のサプライ・チェーンに含まれている場合には、何らかの影響が及ぶ可能性を排除できない点には注意が必要だろう。
紛争鉱物の開示規則に対する企業側の反発は強いものがあり、規則制定が遅れたのも、このためである。条文が不明確であり、企業の義務の範囲を明確に確定できないだけでなく、開示コストが過重になるとの声が強い。規則制定に先立ってSECが行った予想開示コストの100倍以上の負担を企業に強いるとの推計がある。90億ドルから160億ドル(The National Association of Manufacturers)という推計と、79.3億ドル(Tulane University)という見通しが公表されている。この負担を回避し、又は軽減させるため、規則の施行延期、段階的施行、少量利用への適用除外(紛争鉱物の含有量が基準以下である場合には開示義務を課さない)など、規則に関する意見が産業界の団体から提出されていた。こうした産業界の意見を一部容れ、2年間(小規模企業では4年間)は、紛争鉱物か否かを決定することができない場合、「DRC紛争との関連不明(DRC conflict undeterminable)」という開示も認められ、第三者監査も不要とされたのは、当初案からの大きな変更点である。
(2011年6月20日掲載)
(2012年9月6日更新)
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