生活費危機の時代に重要な「生活賃金」

多様なステークホルダーとの「賃金をめぐる対話」が企業の課題に

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2025年09月18日

  • 金融調査部 研究員 中 澪

サマリー

◆物価高騰に直面する高所得国において「生活費危機(cost of living crisis)」が深刻化するなか、人間らしい生活を享受するのに必要な賃金水準である「生活賃金(living wage)」に対する関心が強まっている。国際社会は、貧困や不平等の是正等における生活賃金の不可欠な役割について合意し、企業にも行動を求めている。

◆生活賃金の普及において先行する米国や英国の事例をみると、法定最低賃金は生活賃金を大幅に下回る場合があり、最低賃金では尊厳ある暮らしは困難である。近年、米国と英国では企業に対して生活賃金に関する方針の策定や情報開示を求める株主提案が提出されており、ステークホルダーとの対話の重要性が高まっている。

◆日本企業のあいだでは、統合報告書やサステナビリティレポート等で生活賃金に関する情報開示を行う企業があり、最近では一部の企業が有価証券報告書において生活賃金の重要性に言及するようになった。これまでの日本企業の生活賃金に関する取組みは、人権に関わる課題として位置づけられている場合が多い。

◆企業にとって、生活賃金の重要性に対する認識を高め、その考え方に対する理解を深めることが重要であると考えられる。日本でも物価上昇が進むなか、賃金に関する情報開示の拡充について議論が進んでいる。ステークホルダーとの「賃金をめぐる対話」は、これからのサステナビリティ推進において重要な課題となると考えられる。

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