2023年07月19日
サマリー
◆ESG評価の重要性が高まる中、評価機関によって同一企業に対する評価が大きく異なる実態が明らかとなり、評価の妥当性や信頼性が疑問視されるようになった。一方、ESGは複雑で多様な概念であり、その評価が異なること自体は必ずしも問題とはいえない。本稿では、最近の実証研究の結果を検討することで、主に方法論の観点からESG評価に相違が生じる要因について理解を深めることを目的とする。
◆Berg, Kölbel, and Rigobon(2022)“Aggregate Confusion: The Divergence of ESG Ratings”に基づくと、ESG評価の相違は「範囲(scope)」、「測定(measurement)」、「ウェイト(weight)」に要因分解できる。同論文によると、6つの評価機関について一対の組み合わせごとにESG評価の相違を要因分解した結果を平均すると、相違の56%が「測定」で説明される。残りの38%が「範囲」、6%が「ウェイト」で説明され、「測定」による相違が大きいことが分かる。
◆ESG評価のプロセスとは情報を集約するプロセスであり、その方法論をめぐってはさまざまな選択がある。どのような選択をするかの違いが集約のプロセスの中で積み重なることによって、ESG評価と総称されるものを全体として見た場合に、ESG評価機関の個々の評価の間に相違が生じるものと理解できる。
◆もっとも、ESG評価の相違は評価機関の方法論のみに起因するものではなく、企業の情報開示の不足に起因する面もある。評価機関と利用者(主に機関投資家)の間のみならず、評価機関と企業との間でいかなるコミュニケーションが図られていくのかも、ESG評価のこれからを考える際には無視できない点であろう。今後は、ESG評価の妥当性や信頼性を確保するために、対話のような質的なアプローチを補完的に組み合わせることの重要性が増すのではないだろうか。
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