もう一歩進んだ省エネ視点が欲しい「エネルギー白書2013」

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2013年06月27日

サマリー

2013年6月14日、「平成24年度 エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書2013)」が閣議決定・国会報告された。第1部は「エネルギーを巡る世界の過去事例からの考察」と「東日本大震災と我が国エネルギー政策のゼロベースからの見直し」の2本立て、第2部は国内外のエネルギー動向、第3部は前年度に講じた施策の概況を記載している。


2011年度の最終エネルギー消費は、1990年度比で4.6%増加している(図表1)。1973年の石油危機時と比べて、産業部門は0.9倍と横ばいが続いているが、運輸部門は1.9倍、民生部門は2.4倍(業務部門2.8倍、家庭部門2.1倍)に増加となっている。民生部門のエネルギー消費が増えた背景として、「快適さや利便性を求めるライフスタイルの普及等」を挙げている。

図表1 部門別最終エネルギー消費
図表1 部門別最終エネルギー消費
(出所)資源エネルギー庁「エネルギー白書2013」、「平成23年度 (2011年度)におけるエネルギー需給実績(確報)」を基に大和総研作成

エネルギー白書のデータ元でもある「平成23年度 (2011年度)におけるエネルギー需給実績(確報)」(資源エネルギー庁)では、各部門の2010年度からの増減要因を次のように分析している。

産業部門

上期は被災やサプライチェーン寸断、個人消費の落ち込みなどで経済活動が落ち込んだ。下期は被災からの復旧や個人消費の回復はあったが海外経済減速もあって鉱工業生産指数が減。
産業部門の最終エネルギー消費の9割以上を占める製造業において、生産指数要因(生産活動の停滞)や原単位要因(原単位指数が減)が減少に寄与。

家庭部門

震災により節電意識が高まったこと、前年度に比べて夏季の気温が低めに推移したことなどにより最終エネルギー消費が減少。
増加に寄与した要因は世帯数要因(世帯数の増加)と冬の気温要因、減少に寄与した要因は世帯人員要因(人員の減少)と夏の気温要因。

業務部門

活動指数の増加、厳冬の影響により最終エネルギー消費が増加。
活動指数要因や、気温やエネルギー効率などの影響による原単位要因が増加に寄与。

運輸部門

(旅客部門の輸送量は減少、貨物部門の輸送量は微増)(※1)

エネルギー白書では、「現代社会においては安定かつ低廉なエネルギーなくしては、個人の生活が、産業が、ひいては社会全体が機能できず、社会が成り立ち得ない構造」であるため、エネルギーの重要性が高まっているとしている。また、生産(調達)-流通-消費という「エネルギーチェーン」の各段階における課題と対応を解説している。


このエネルギーチェーンは、サプライチェーンに近い考え方、つまり供給者からの視点である。しかし、エネルギーは社会のニーズ(需要)を実現するためにあることを考えると、「社会」のあり方から見たエネルギーチェーンとすると、なお良いと思われる。社会のあり方が変われば、必要とされるエネルギーの量も質も変わるからである。


今後、途上国が先進国並みのライフスタイルを目指して開発を進めた場合、エネルギーが足りなくなるといわれている。例えば、途上国でも先進国でも海外に行くと冷房が効きすぎて寒かったという経験をした人は少なくないだろう。これは「寒いくらいに冷房をつけることが裕福な証しであり、もてなしでもある」、「人がいない部屋も含めて家の中、全部が涼しい方がいい」という「文化」の影響があると思われる。もし、世界中の国が日本のように、空調の室温設定を適度にして必要な時間だけ稼働するようになれば、快適性を犠牲にすることなくエネルギー消費を減らすことが可能になろう。これは民生部門の話であるが、工場の省エネや輸送の省エネも同様である。日本から世界に向けて、快適と省エネが両立する「社会のクール・ジャパン」を提案しても良いのではないだろうか。


(※1)カッコ内は輸送量の推移の表から筆者がコメントしたもの。

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