2013年06月24日
サマリー
環境省と国土交通省では、一般市民の参加を得て、川にすむ生き物を採集し、その種類を調べることで、水質を判定する調査(全国水生生物調査)を昭和59年度から実施しており、先ごろ、平成24年度の調査結果が公表された(※1)。この調査では、サワガニやアメリカザリガニなどの指標生物を定め、その生物の生息が確認された地点の水質を、水質指標Ⅰ(きれいな水)などの4段階で判定している。この調査によれば、きれいな水と判定された地点は、全体の59%を占めており、前年度の調査(※2)と比較で4%ポイント増加している。

きれいな水の割合を地域別にみると、北海道や東北では8割程度となっているのに対し、関東や近畿、中国、四国などでは5割程度の水準にとどまっている。降水量の少ない地域や水の使用量が多い地域では、きれいな水を維持することが難しい可能性が示唆される。しかし、前年度調査との比較では、ほとんどの地域できれいな水の割合が増加しており、水をきれいにする取り組みが、各地で着実に進められているといえよう(※3)。

平成24年度の調査には、全国から1,587団体、61,818人が参加しており、一級河川505地点とその他の河川1,927地点の合計2,432地点で調査が実施されている。しかし、この調査では、参加者が任意に調査地点を選定することになっており、最も多かった平成12年度の5,639地点と比較すると、調査地点数が半数以下に減少している。調査地点数が少なくなると、水質の状況を概括的に示す調査の機能が低下し、時系列での比較が難しくなることも考えられる。
この調査は、水生生物を指標として河川の水質を評価するだけでなく、環境問題への関心を高めることも目的としている。しかし、参加団体数や参加人数にも、ピーク時との比較で大きな減少がみられている。日本では、生物多様性の保全より、人間生活の豊かさを維持することを望む人々も多く、生物多様性の保全に対する意識はそれほど高くないようにみえる(※4)。調査には、夏休み期間を中心に、全国の小中学校や子ども会なども参加しているが、若者が自然と触れ合う機会が少なくなれば、生物多様性の保全に対する意識がさらに後退することも懸念される。

調査の結果は、データマップ形式でも公表されており、住まいや職場の近くにある調査地点の状況を見ることもできる(※5)。地域の環境や生き物への理解や関心を高める取り組みが、各地で広がることを期待したい。
(※1)「平成24年度全国水生生物調査の結果及び平成25年度の調査の実施について(お知らせ)」(報道発表資料:平成25年6月11日)環境省
(※2)「平成23年度全国水生生物調査の結果及び平成24年度の調査の実施について(お知らせ)」(報道発表資料:平成24年6月8日)環境省
(※3)「平成23年全国一級河川の水質現況の公表について」(報道発表資料:平成24年7月31日)国土交通省
(※4)「循環型社会・自然共生社会は豊かさを維持しながら-環境問題に関する世論調査から-」2012年8月24日掲載ESGニュース
(※5)「全国水生生物調査のページ」環境省
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
執筆者のおすすめレポート
同じカテゴリの最新レポート
-
東証が求めるIR体制の整備に必要な視点
財務情報とサステナビリティ情報を統合的に伝える体制の整備を
2025年04月28日
-
サステナビリティ課題への関心の低下で懸念されるシステムレベルリスク
サステナビリティ課題と金融、経済の相互関係
2025年04月21日
-
削減貢献量は低炭素ソリューションの優位性を訴求するための有用な指標となるか
注目されるWBCSDのガイダンスを踏まえて
2025年04月17日
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
トランプ関税で日本経済は「漁夫の利」を得られるか?
広範な関税措置となっても代替需要の取り込みで悪影響が緩和
2025年03月03日
-
地方創生のカギとなる非製造業の生産性向上には何が必要か?
業種ごとの課題に応じたきめ細かい支援策の組み合わせが重要
2025年03月12日
-
中国:全人代2025・政府活動報告を読み解く
各種「特別」債で金融リスク低減と内需拡大を狙う
2025年03月06日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
-
2025年の日本経済見通し
1%台半ばのプラス成長を見込むも「トランプ2.0」で不確実性大きい
2024年12月20日
トランプ関税で日本経済は「漁夫の利」を得られるか?
広範な関税措置となっても代替需要の取り込みで悪影響が緩和
2025年03月03日
地方創生のカギとなる非製造業の生産性向上には何が必要か?
業種ごとの課題に応じたきめ細かい支援策の組み合わせが重要
2025年03月12日
中国:全人代2025・政府活動報告を読み解く
各種「特別」債で金融リスク低減と内需拡大を狙う
2025年03月06日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
2025年の日本経済見通し
1%台半ばのプラス成長を見込むも「トランプ2.0」で不確実性大きい
2024年12月20日