生物多様性とは、「種内の多様性」「種間の多様性」「生態系の多様性」を指す。生物多様性というと、野生の動植物の種類の多さと思われがちだが、これは「種間の多様性」にあたる。個体同士の遺伝子の違いや同じ種でも生息域の違いによる個体群の遺伝子の違いは「種内の多様性」といい、森林・里山・干潟・珊瑚礁など生息域の違いは「生態系の多様性」という。なお生物には微生物や家畜も含まれる。
近年、乱獲・乱開発、汚染、侵略的外来種、気候変動などにより生物多様性への脅威が高まっている(※1)が、直接的に動植物を利用している産業や途上国を除いて、生物多様性の損失が人類にもたらす影響の大きさは意識されていなかった。しかし人類は、何らかの形で生態系サービス(※2)の恩恵を受けており、その生態系サービスの基盤は生物多様性である(図表1)。一度、失ってしまった生態系サービスを人類が作り出すのは困難であるため、生物多様性の保全と持続可能な利用は、人類全体の課題といえる。
図表1 生物多様性と人類の関係
出所:大和総研作成 (参考:「企業のための生態系サービス評価(ESR)」)
この課題に世界全体で包括的に取り組むため、生物多様性条約(図表2)が1992年5月に国連の地球サミットで採択され、1993年12月に発効した。日本は1993年に締結、2009年12月末現在、193の国と地域が締結している。2002年の生物多様性条約第6回締約国会議、COP6(Conference of the Parties)では、「締約国は2010年度までに、生物多様性の損失速度を顕著に減少させる」という目標が採択された(※3)。その目標年である2010年、COP10が名古屋で開催(※4)される。2010年はまた、国連が定める国際生物多様性年でもある。
図表2 生物多様性条約
出所:以下を参考に大和総研作成
「生物多様性条約の概要」 環境省 自然環境局 生物多様性センター
日本では2007年に「第三次生物多様性国家戦略」で地方公共団体や企業の参画の必要性がうたわれ、2008年に成立した「生物多様性基本法」でも国や国民の責務の他に、事業者の責務として「生物多様性に配慮した事業活動」が掲げられた。また2009年には、日本経団連が「日本経団連生物多様性宣言」を発表している。一部の先進的な企業が自社の環境目標に生物多様性を取り入れて、事業活動と連動した取り組みを模索しているものの、全体的にみれば国レベルでも企業レベルでも具体的な動きは、まだ少ない。COP10をきっかけとして、具体的な取り組みが進むことが望まれる。
(※1)例えば日本では、1950年代後半から現代まで全体的に見れば損失は続いており、特に、陸水生態系、沿岸・海洋生態系、島嶼(とうしょ)生態系における損失は大きい、という報告が出ている。 「生物多様性総合評価報告書 2010年5月」 環境省 自然環境局 生物多様性センター
(※2)生態系がもたらす多様な恵みのこと。例えば、土壌形成・酸素の供給、水・食料・医薬品の原料・燃料、水の浄化・防災(洪水被害の軽減)・温室効果ガスの吸収、レジャー・芸術活動など。
(※3)2010年5月、生物多様性条約事務局は『地球規模生物多様性概況第3版(GBO3)の概要(和文)』で「2010年目標の達成のために設定された21の個別目標の中で、地球規模で達成されたものはない。」と発表した。
(※4)2010年10月18日(月)~29日(金) 愛知県名古屋市で開催される。 生物多様性条約第10回締約国会議支援実行委員会
(2010年6月15日掲載)
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