2013年04月18日
サマリー
環境省は、先ごろ第三次循環型社会形成推進基本計画(案)を公表し、5月7日までの日程でパブリックコメントを募集している(※1)。循環型社会形成推進基本計画(循環基本計画)は、2000年に制定された循環型社会形成推進基本法第15条の規定に基づき、循環型社会の形成に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るための基本計画を指す。2003年に第一次循環基本計画、2008年に第二次循環基本計画がそれぞれ定められており、第二次の計画策定から5年を経て、今回が3回目の計画策定となる。
循環基本計画は、環境基本法に基づく環境基本計画を基本として策定されることになっており、東日本大震災の影響等も踏まえた第四次環境基本計画は、2012年4月に閣議決定されている(※2)。第四次環境基本計画には、低炭素・循環・自然共生の各分野を統合的に達成することに加え、その基盤として「安全」を確保することが盛り込まれている。第三次循環基本計画(案)でも、循環型社会形成に向けた取組の中長期的な方向性の一つとして、「安全・安心の実現」が述べられている。安全・安心の取組としては、有害物質を含む廃棄物等の適正処理システムの構築と災害時の災害廃棄物処理システムの強化が挙げられている。

(出所)環境省資料より大和総研作成
第二次循環基本計画(※3)では、物質フローの三つの断面(「入口」「循環」「出口」)について数値目標が置かれていたが、「循環」(循環利用率)と「出口」(最終処分量)については、2015年度の目標が前倒しで達成されている。そのため、第三次循環基本計画(案)では、それぞれの数値目標を上積みして、2020年度に向けた新たな目標を定めている。建設、自動車、家電、食品、容器包装についての各リサイクル法に加え、2013年4月からは小型家電リサイクル法も施行されており、個別物品の特性に応じた資源の回収や有効利用がさらに進むことが期待される。循環型社会ビジネスの市場規模は、2020年度において約66兆円とすることが目標とされている。

第三次循環基本計画(案)には、国内における取組の一つとして、「『質』にも着目した循環型社会の形成」が掲げられており、リサイクルより優先順位が高い2R(リデュース・リユース)を一層進めることとしている。2Rの取組としては、長期間使用できる製品の開発、容器包装の削減・軽量化、リターナブル容器の利用などが挙げられており、これらの取組を行っている事業者が社会的に評価される仕組みづくり等を進めることとしている。また、国民の役割として「自らも廃棄物等の排出者であり、環境負荷を与えその責任を有している一方で、循環型社会づくりの担い手でもあることを自覚して行動するとともに、より環境負荷の少ないライフスタイルへの変革を進めていくこと」が求められている。
第三次循環基本計画(案)では、国民の「循環型社会に関する意識・行動」についても、目標が設定されている。具体的には、「約90%の人たちが廃棄物の減量化や循環利用、グリーン購入の意識を持つこと」、「具体的な3R行動の実施率が平成24年度に実施した世論調査(※4)からそれぞれ約20%上昇すること」が目標とされる。しかし、同世論調査からは、3Rについて一定の認知は進んでいるものの、現在の生活水準や豊かさを維持することを望む国民が少なくないことも垣間見られている(※5)。経済状況が上向く中で、循環型社会の形成を一層進めるためには、国民のライフスタイルの変革が、重要な鍵を握ることになろう。

(※1)「第三次循環型社会形成推進計画(案)に対する意見の募集(パブリックコメント)について(お知らせ)」(報道発表資料:平成25年4月4日)環境省
(※2)「第四次環境基本計画の閣議決定について(お知らせ)」(報道発表資料:平成24年4月27日)環境省
(※3)「循環型社会形成推進基本計画について」環境省
(※4)「環境問題に関する世論調査」内閣府
(※5)「循環型社会・自然共生社会は豊かさを維持しながら-環境問題に関する世論調査から-」2012年8月24日掲載ESGニュース
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
同じカテゴリの最新レポート
-
カーボンクレジット市場の新たな規律と不確実性
VCMI登場後の市場と、企業に求められる戦略の頑健性
2025年07月24日
-
不平等・社会関連財務情報開示タスクフォース(TISFD)の構想と日本企業への示唆
影響、依存、リスクと機会(IDROs)をいかに捉え、対処するか
2025年07月14日
-
ESGスコアの成長率と企業パフォーマンス
「社会」に関する取組みの中長期的な継続と向上の重要性
2025年06月26日
最新のレポート・コラム
-
カーボンクレジット市場の新たな規律と不確実性
VCMI登場後の市場と、企業に求められる戦略の頑健性
2025年07月24日
-
金利上昇下における預金基盤の重要性の高まり
~預金を制するものは金融業界を制す~『大和総研調査季報』2025年夏季号(Vol.59)掲載
2025年07月24日
-
企業の賃金設定行動の整理と先行きへの示唆
~生産性に応じた賃金決定の傾向が強まる可能性~『大和総研調査季報』2025年夏季号(Vol.59)掲載
2025年07月24日
-
ドイツ経済低迷の背景と、低迷脱却に向けた政策転換
『大和総研調査季報』2025年夏季号(Vol.59)掲載
2025年07月24日
-
ロンドンは地下鉄がアツイ
2025年07月28日
よく読まれているリサーチレポート
-
第225回日本経済予測(改訂版)
人口減少下の日本、持続的成長への道筋①成長力強化、②社会保障制度改革、③財政健全化、を検証
2025年06月09日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
-
「トランプ2.0」、外国企業への「報復課税」?
Section 899(案)、米国に投資する日本企業にもダメージの可能性有
2025年06月13日
-
日本経済見通し:2025年5月
経済見通しを改訂/景気回復を見込むもトランプ関税などに警戒
2025年05月23日
-
信用リスク・アセットの算出手法の見直し(確定版)
国際行等は24年3月期、内部モデルを用いない国内行は25年3月期から適用
2022年07月04日
第225回日本経済予測(改訂版)
人口減少下の日本、持続的成長への道筋①成長力強化、②社会保障制度改革、③財政健全化、を検証
2025年06月09日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
「トランプ2.0」、外国企業への「報復課税」?
Section 899(案)、米国に投資する日本企業にもダメージの可能性有
2025年06月13日
日本経済見通し:2025年5月
経済見通しを改訂/景気回復を見込むもトランプ関税などに警戒
2025年05月23日
信用リスク・アセットの算出手法の見直し(確定版)
国際行等は24年3月期、内部モデルを用いない国内行は25年3月期から適用
2022年07月04日