2013年04月12日
サマリー
現在の我々の生活は、さまざまな化学物質から作られた製品を使用することで成り立っているが、その製品や原材料を製造する際や使用する際、また廃棄物として処理する際にさまざまな化学物質が大気、水、土壌などの環境に排出されている。PRTR(Pollutant Release and Transfer Register)制度(※1)は、化学物質排出把握管理促進法(化管法)に基づいて、事業者が化学物質の排出量や移動量を届け出たデータを把握し、集計し、公表する仕組みである。このPRTRデータにより、毎年どんな化学物質が、どの排出源から、どれだけ排出されているかを知ることができる。そこで、平成25年2月28日に発表された「平成23年度PRTRデータの概要」(※2)により、化学物質の排出量や移動量を概観する。
図表1が、事業者より届け出のあった化学物質の排出量と移動量を集計した結果の推移である。直近の平成23年度(排出把握期間は、平成23年4月1日から平成24年3月31日)における大気などへの化学物質の排出量は17万4千トンであった。また、事業者外への廃棄物としての移動など化学物質の移動量は22万5千トンで、合わせて39万9千トンの化学物質が事業者から出されたことになる。前年度と比べると、排出量は4.0%減っているが、移動量は13.5%増え、結果として合計では5.1%の増加となっている。PRTR制度の始まった平成13年度からの推移をみると、排出量は概ね減少傾向がみられるが、移動量は平成21年度までは減少傾向にあったものの、平成22年度からは増加が続いている。ただし、経時的な比較には注意が必要で、平成14年度までは年間取扱量が5トン以上の事業所が届出制度の対象であったが、平成15年度からは年間取扱量が1トン以上の事業所が対象となっている。また、平成22年度からは届出の対象となる化学物質が増え、また医療業も届出が必要な業種となったことが影響していよう。このように、ここで示した排出量と移動量は制度的な変更の影響を受けていることに注意が必要である。ただ、届出の必要な化学物資の変更の影響をできるだけ除くように集計されている継続物質の量をみても、平成23年度は排出量が15万7千トンで前年度比-4.0%、移動量は19万9千トンで前年度比+16.4%、合計が35万6千トンで前年度比+6.4%となっており、排出量は減少したが、移動量が増えたために全体も増加となっている。
図表1.届出排出量、移動量の推移

(注1)平成15年度から年間取扱量が1トン以上の事業所(平成14年度までは年間取扱量が5トン以上の事業所が対象)による排出量等の届出が開始。
(注2)平成22年度から対象化学物質が354物質から462物質に変更され、医療業が対象業種へ追加。
(出所)経済産業省、環境省「平成23年度PRTRデータの概要」より大和総研作成
図表2が、平成23年度の排出先や移動先別に化学物質の量をまとめたものである。全体では43.6%が排出、残りの56.4%が移動となっており、排出量よりも移動量の方が多い状況にある。排出先では、大気への排出が排出量の90.7%を占め、届出の行われた化学物質はほとんどが大気中に排出されていることになる。移動先については、事業所外への廃棄物としての移動が99.4%となっており、移動量のほとんどを占めている。具体的な化学物質ではトルエンの排出量と移動量の合計が約10万トンで、全体の25.1%を占めている。また、トルエンは溶媒として広く用いられる物質であり、揮発性があるためか5万8千トンが大気中へ排出されている。
図表2.平成23年度の排出先別届出排出量、移動量

(出所)経済産業省、環境省「平成23年度PRTRデータの概要」より大和総研作成
以上のように、化学物質は事業者から届出のあったものだけで平成23年度の1年間で39万9千トンもの量が排出、移動されている。また、そのうちの15万8千トンは大気へ、9千トンは川や海などの公共用水域へ排出され、下水道へも1千トン以上の化学物質が移動している。さまざまな化学物質による複合的な影響を含めて、多くの化学物資は人の健康や生態系への影響に関する科学的知見が十分ではないとされている。PRTR制度で公表されているデータだけで人の健康や生態系への影響を評価することはできないが、このデータを利用しながら、化学物質による環境リスクの評価が進み、化学物質の性質や管理についての科学的知見が充実することを期待したい。
(※1)PRTR制度については、経済産業省のWebサイト「PRTR制度」や環境省のWebサイト「PRTRインフォメーション広場」に各種の情報が掲載されている。
(※2)環境省「平成23年度PRTRデータの概要」
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