国際標準化を巡る動き

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2012年10月19日

サマリー

2012年10月に入って、国際標準化に関する記事が続けて発表された。まず、国際電気標準会議(International Electrotechnical Commission:IEC)において、東芝と日立が提案した、電気エネルギー貯蔵システム(Electrical Energy Storage System)に関する新たな専門委員会(Technical Committee:TC)の設立が承認された(10月1日)(※1)。発表によると、スマートグリッド分野で初めて日本が主体となって設置されるものである。当TCの運営を行う国際幹事にも日本が選ばれており、電気エネルギー貯蔵システムの分野において、国際標準化を主導すると期待されている。

次に、次期IEC会長にパナソニック顧問である野村淳二氏が選出された(10月5日)(※2)。任期は2014年1月から3年間である。


世界には三大国際標準化機関といわれるものがあり(図表)、IECは電気・電子技術分野、ITUは電気通信分野、ISOはこれら以外の標準化を行う。例えばIECには電池、ITUには携帯電話等の通信に関する規格がある。ISOは、製品規格だけでなくマネジメント規格も対象としている。環境マネジメントシステム(ISO 14001)や品質マネジメントシステム(ISO 9001)が有名である。

図表 国際標準化機関
図表 国際標準化機関
(注)Long Term Evolution : 携帯電話の高速通信規格
(出所)各種公開資料を基に大和総研作成



最近の日本は、技術で勝って事業で負けるといわれることがあるが、原因の一つが主導的に国際ルールを作ってこなかったからであるといわれる。標準化の意義は、「一定の品質・安全の保証、互換性・相互接続性の確保、低コスト化・調達の容易化、R&D成果の実用化促進」(※3)にある。さらに国際的には、ビジネスを差別化するための事業戦略の一つという認識になっている。国際標準化戦略は、規格に沿って良質で安価な製品を大量に作るためだけでなく、競争領域を限定することによってコスト競争を避けたり、市場を創設したりするためにも重要なのである。

ただし、規格には必ずしも高い技術が採用されるわけではない。国際標準化活動には、委員長・議長や幹事国といった要職に就くこと、日頃の人脈形成やロビー活動等の政治力・外交力(※4)と、他国に先んじた提案等も重要なカギとなる(※5)。これまでの日本は、国内の業界内等での調整に時間がかかり、国際標準化活動が遅れることがあった。経済産業省は、ISOやIECに対して迅速な国際標準化提案を図るため、「トップスタンダード制度」を2012年に創設した(※6)。今回の東芝と日立も、このトップスタンダード制度を利用している。


2014年にはIECの大会が15年振りに日本で開催される(2014年IEC東京大会)。経済産業省は、2014年までの3年間を「JAPAN Standing Years(※7)」として、「国際標準提案力を高め、日本企業の標準化活動を強固なものにしていく絶好の機会(※8)」と位置付け、本大会の準備組織である2014年IEC東京大会組織委員会にて、具体的な活動を3つ挙げている。

 ・テクニカルビジットの企画・実施:スマートグリッド等、具体的なテーマごとにタスクフォースを作って推進
 ・併催プログラムの企画・実施:シンポジウム開催等によりIECの動向や国際標準化の重要性について認知度を高める
 ・次世代の標準化人材育成プログラム:若手の人材を増やすための養成講座や実地研修


低炭素化や省エネルギー、少子高齢化、防災や震災復興等、課題先進国の日本が、その技術力を活かして世界を主導し貢献するために、こうした国際標準化活動への期待が高まる。


(※1)東芝 ニュースリリース 2012年10月3日 「日本工業標準調査会トップスタンダード制度活用による国際電気標準会議への日本主体の新しい専門委員会の設置
(※2)経済産業省 ニュースリリース 平成24年10月5日 「野村淳二氏(パナソニック(株)顧問)がIEC会長に選出されました」
(※3)独立行政法人 産業技術総合研究所 編著 『未来をひらく国際標準-国際ルールづくりに自ら参加する日本へ』(2012年8月22日発行)より、野間口 有(独立行政法人産業技術総合研究所理事長/日本興業標準調査会会長) 「国際標準の重要性と産総研の戦略」
(※4)ISOやIECは一国一票というルールのため、欧州のように「仲間」の国が多い方が有利。
(※5)日経ビジネスONLINE 「市川芳明 世界環境標準化戦争」 「ガラパゴス現象を防ぐための『成功の方程式』
(※6)日本工業標準調査会 「トップスタンダード制度について」
(※7)「日本人が国際組織において立候補(Standing)している期間に、日本が世界で際だつ(Stand)ため、国際標準化(Standardization)を積極的に活用することが目標」 出所:脚注8
(※8)経済産業省 ニュースリリース 平成24年2月27日 「2014年IEC東京大会を成功に導く第1回組織委員会がキックオフ~国際標準化の更なる加速と産業競争力強化に~」

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