バイオミメティクス(biomimetics)は、生物の形態や機能の模倣のことで、Bio(生命)、mime(パントマイム)、mimic(模倣者、擬態の)を組み合わせた造語である(※1)。古くは、木を掘り進む時に口から分泌液を出して周りの壁を固めるフナクイムシをヒントにした「シールド工法」や、鋭いトゲに覆われたオナモミの実をヒントにした「面ファスナー」などがある。前者は1820年代に最初のシールド工法によるトンネル工事が行われたとされ、後者は1950年代半ばに実用化された。近年、話題に上ったものには、ヤモリの足裏の構造をヒントにしたくっつきやすくはがれやすいテープ、ハスの葉の表面構造をヒントにした超撥水金属、蚊からヒントを得た刺しても痛くない注射針、鳥や魚の形態を模した空気抵抗の少ない乗り物(新幹線など)や水抵抗の少ないスポーツウェアなどがある。
今後、バイオミメティクスを産業につなげ、世界に展開していくために、国際標準化(国際規格化)が進められている。従来の日本の標準化活動は、効率的なものづくりや品質・安全性の確保などに重点がおかれていた。しかし、国際標準化機構(ISO)などが定める近年の国際標準は、評価手法やシステムなども対象とするようになっており、ビジネス戦略上重要な要素となっている。バイオミメティクスについては、ISOの技術委員会(TC)としてISO/TC266 Biomimeticsがあり、その中にはWG1(定義:議長国ドイツ)、WG2(材料・構造・構成要素:議長国ベルギー)、WG3(構造の最適化:議長国ドイツ)というワーキンググループ(WG)がある。2013年5月に開催されたISO/TC266 Biomimetics 第2回総会では、WG4(議長国日本)としてデータベースを設置することが採択された。TC266では日本の他に、ドイツ、フランス、韓国なども活発な活動を行っている。また、このTC266の「ビジネスプランは(中略)、環境、持続可能性、教育といった文化的背景に踏み込むものであった」ことなどから、「TC266での議論が将来どのよう(※2)産業化やビジネス展開に影響してくるのか、(中略)、十分考え、戦略を練って対応すべき」との指摘もある(※3)。
バイオミメティクスは、素材、機械、医療、環境、エネルギー、交通システムなど多様な分野に貢献するものとして期待されているが、生物学と工学(材料、分子、機械、ロボットなど)や医学など異分野の技術・知見の連携が必須である。国際的な動向を踏まえ、効果的な連携を促すような支援が望まれる。
【参考資料】
平成24年度科学研究費補助金 新学術領域研究(研究領域提案型) 生物多様性を規範とする革新的材料技術
ネイチャーテック研究会「すごい自然のショールーム」
公益社団法人 高分子学会 バイオミメティクス研究会
「自然にまなぶ!ネイチャー・テクノロジー」 監修:石田秀輝・下村正嗣 GAKKEN(2011年9月22日 第1刷発行)
(※1)米国の神経生理学者のオットー・シュミットによる造語。似た言葉に「バイオミミクリ(biomimicry)」があるが、バイオミメティクスからの派生語であるとされる(科学技術動向 2010年5月号 下村 政嗣 客員研究官「生物の多様性に学ぶ新世代 バイオミメティック材料技術の新潮流」)。
(※2)原文のまま
(※3)産業技術総合研究所 関谷瑞木「速報 国際標準化 ISO/TC266 Biomimetics 第2 回総会」、PEN(Public Engagement with Nanobased Emerging Technologies NEWSLETTER) June 2013 Volume 4, Number 3
(2014年2月12日掲載)
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