サマリー
◆国民の資産所得倍増の実現に向けたNISA(少額投資非課税制度)に関する政府目標のうち、NISA買付額はすでに前倒しで達成したとみられる一方、NISA口座数については前年より増加ペースが鈍化しており、NISA利用者の裾野拡大に向けたさらなる取り組みが課題となり得る。こうした中、本稿では、「職場」を通じた個人の資産形成制度の1つである「職場つみたてNISA」に着目する。
◆「職場つみたてNISA」は、政府の「資産所得倍増プラン」で掲げられた7本柱のうち「第四の柱」の項目の中で明記されており、英国の「ワークプレイスISA」と呼ばれる制度の日本版ともいえる。通常のNISAとの相違点として、事業主等(企業・官公庁等)を通じて加入することや、金融経済教育等を受けられる環境が整備されていること、奨励金の設定も可能となっている点などが挙げられる。
◆NISA加入者(役職員等)にとっては、長期的な資産形成に必要な知識も習得しやすいことや、奨励金が設定されている場合は金銭的メリットを享受できることなどが長所となる。他方、通常、つみたて設定を変更できる時期が限定されることに加え、転職や休職等の場合に手続きが必要なことなどに留意したい。
◆事業主等の長所としては、福利厚生制度の拡充を通じて役職員等の満足度向上や離職率の低下につなげられる可能性が挙げられ、役職員等のファイナンシャル・ウェルビーイングの向上に資する効果も期待される。役職員等のエンゲージメントの向上に有効との指摘もある。一方、短所としては、バックオフィスの負担増やシステム費用の発生、奨励金の設定に伴う金銭的コストの発生などが挙げられる。
◆NISA取扱業者(銀行・証券会社等)にとっての長所としては、取引先企業を通じて顧客を獲得できることなどが挙げられる。長期的には、いわゆる「職域」と呼ぶ取引先企業の役職員等との取引を深めることで、将来の潜在的な準富裕層や富裕層の取り込みにもつなげられる可能性がある。一方、金融経済教育等の提供などに伴う負担増や一定のシステム費用が発生することなどが課題となり得る。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
執筆者のおすすめレポート
-
新NISAの「裏技?」のような制度と「国内投資枠」新設の提案
2024年02月14日
-
NISAの進捗度と家計マネーの海外シフトの実像
当面は国内成長分野への資金供給より資産所得倍増を優先へ
2025年02月13日
-
労働者と資本家をつなげる従業員持株会との付き合い方
2022年08月03日
同じカテゴリの最新レポート
-
大和のクリプトナビ No.2 暗号資産価格のリターン・ボラティリティ・相関の特徴
過去のリターンは、将来のリターンに対する一定の予測力が存在
2025年04月15日
-
大和のクリプトナビ No.1 暗号資産価格の歴史的推移
需給の影響を受けやすく、足元では政策や機関投資家の動きも影響
2025年04月10日
-
空売りアクティビストの実像
ファンドの特徴、標的となる企業の傾向、会社側の対応などを探る
2025年02月17日
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
トランプ関税で日本経済は「漁夫の利」を得られるか?
広範な関税措置となっても代替需要の取り込みで悪影響が緩和
2025年03月03日
-
地方創生のカギとなる非製造業の生産性向上には何が必要か?
業種ごとの課題に応じたきめ細かい支援策の組み合わせが重要
2025年03月12日
-
中国:全人代2025・政府活動報告を読み解く
各種「特別」債で金融リスク低減と内需拡大を狙う
2025年03月06日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
-
2025年の日本経済見通し
1%台半ばのプラス成長を見込むも「トランプ2.0」で不確実性大きい
2024年12月20日
トランプ関税で日本経済は「漁夫の利」を得られるか?
広範な関税措置となっても代替需要の取り込みで悪影響が緩和
2025年03月03日
地方創生のカギとなる非製造業の生産性向上には何が必要か?
業種ごとの課題に応じたきめ細かい支援策の組み合わせが重要
2025年03月12日
中国:全人代2025・政府活動報告を読み解く
各種「特別」債で金融リスク低減と内需拡大を狙う
2025年03月06日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
2025年の日本経済見通し
1%台半ばのプラス成長を見込むも「トランプ2.0」で不確実性大きい
2024年12月20日