「職場つみたてNISA」の仕組みと導入意義

ファイナンシャル・ウェルビーイングの向上も期待

RSS

2025年03月28日

  • 長内 智

サマリー

◆国民の資産所得倍増の実現に向けたNISA(少額投資非課税制度)に関する政府目標のうち、NISA買付額はすでに前倒しで達成したとみられる一方、NISA口座数については前年より増加ペースが鈍化しており、NISA利用者の裾野拡大に向けたさらなる取り組みが課題となり得る。こうした中、本稿では、「職場」を通じた個人の資産形成制度の1つである「職場つみたてNISA」に着目する。

◆「職場つみたてNISA」は、政府の「資産所得倍増プラン」で掲げられた7本柱のうち「第四の柱」の項目の中で明記されており、英国の「ワークプレイスISA」と呼ばれる制度の日本版ともいえる。通常のNISAとの相違点として、事業主等(企業・官公庁等)を通じて加入することや、金融経済教育等を受けられる環境が整備されていること、奨励金の設定も可能となっている点などが挙げられる。

◆NISA加入者(役職員等)にとっては、長期的な資産形成に必要な知識も習得しやすいことや、奨励金が設定されている場合は金銭的メリットを享受できることなどが長所となる。他方、通常、つみたて設定を変更できる時期が限定されることに加え、転職や休職等の場合に手続きが必要なことなどに留意したい。

◆事業主等の長所としては、福利厚生制度の拡充を通じて役職員等の満足度向上や離職率の低下につなげられる可能性が挙げられ、役職員等のファイナンシャル・ウェルビーイングの向上に資する効果も期待される。役職員等のエンゲージメントの向上に有効との指摘もある。一方、短所としては、バックオフィスの負担増やシステム費用の発生、奨励金の設定に伴う金銭的コストの発生などが挙げられる。

◆NISA取扱業者(銀行・証券会社等)にとっての長所としては、取引先企業を通じて顧客を獲得できることなどが挙げられる。長期的には、いわゆる「職域」と呼ぶ取引先企業の役職員等との取引を深めることで、将来の潜在的な準富裕層や富裕層の取り込みにもつなげられる可能性がある。一方、金融経済教育等の提供などに伴う負担増や一定のシステム費用が発生することなどが課題となり得る。

このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。

執筆者のおすすめレポート

同じカテゴリの最新レポート