サマリー
◆日米独での国債相場の上昇が続く中、金利の急激な反転上昇への警戒感が高まっている。過去、日本国債においても、急激な長期金利の上昇による大幅な損失の発生を幾度か経験しており、最も市場が警戒しているのが、2003年6月から8月にかけて金利急騰を演出した「VaRショック」の再来といわれている。
◆VaR(バリュー・アット・リスク)によるリスク管理では、価格変動時にその対象資産を縮小(売却)することが対応策の基本となる。大きな金利のボラティリティが発生すると損失を回避するために対象資産を売却するだけにとどまらず、再投資の行動が制約される難点を抱えていることが金利の高止まりを継続させるといわれる。
◆金利のボラティリティを増幅させる要因として、ヘッジファンドなど投機筋の動きにも注意が必要だ。特に近年、日本国債市場の相場下落のシナリオに資金を投じる「グローバル・マクロ」や「マネージド・フューチャーズ」戦略が急速に年金スポンサーからの資金を獲得しているといわれている。こういったトレンドフォローと呼ばれる戦略の脅威は、ファンダメンタルズではなく市場のテクニカルなトレンドを収益機会とすることにある。実需を無視した投資シナリオに則って、多額な資金を投じる投機的な行動をとる傾向に注意が必要といえる。
◆引き続き、国内で順調に消化されている日本国債のファンダメンタルズが、足許で急激に悪化しているとは言い難い。大幅に低下した金利のボラティリティを上昇させ、VaRショックの再現を避けるためにも、ファンダメンタルズを無視した、ヘッジファンドの“シナリオ”に乗らない冷静な対応が、現段階では最大のリスク管理ともいえるだろう。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
執筆者のおすすめレポート
-
バーゼル委、トレーディング規制の抜本的改革案を公表
リスク計測指標として、VaR を廃止し、「期待ショートフォール」に変更
2012年06月07日
-
銀行の国債投資はどこまで続くのか
アウトライヤー比率低下に伴う更なる国債投資への傾斜
2012年02月15日
同じカテゴリの最新レポート
-
決着しない受託者責任とESG投資の関係
共和党・民主党の対立の中で議決権パススルーの有用性が高まる
2025年09月19日
-
米国401(k)プランにおけるターゲット・デート・ファンド導入の効果
若年層の株式比率上昇に伴う資産拡大と株式直接投資への波及効果
2025年08月13日
-
ISSが取締役兼務数基準の導入を検討
取締役の兼務が多すぎる場合、選任議案に反対投票推奨へ
2025年07月31日
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
2025年度の最低賃金は1,100円超へ
6%程度の引き上げが目安か/欧州型目標の扱いや地方での議論も注目
2025年07月16日
-
2025年ジャクソンホール会議の注目点は?
①利下げ再開の可能性示唆、②金融政策枠組みの見直し
2025年08月20日
-
既に始まった生成AIによる仕事の地殻変動
静かに進む、ホワイトカラー雇用の構造変化
2025年08月04日
-
米雇用者数の下方修正をいかに解釈するか
2025年7月米雇用統計:素直に雇用環境の悪化を警戒すべき
2025年08月04日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
2025年度の最低賃金は1,100円超へ
6%程度の引き上げが目安か/欧州型目標の扱いや地方での議論も注目
2025年07月16日
2025年ジャクソンホール会議の注目点は?
①利下げ再開の可能性示唆、②金融政策枠組みの見直し
2025年08月20日
既に始まった生成AIによる仕事の地殻変動
静かに進む、ホワイトカラー雇用の構造変化
2025年08月04日
米雇用者数の下方修正をいかに解釈するか
2025年7月米雇用統計:素直に雇用環境の悪化を警戒すべき
2025年08月04日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日