ショッピングモールに学ぶまちづくり~集客装置の整備は官民連携がカギ

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九州新幹線が全線開通し、南のターミナルである鹿児島中央駅の価値が高まった。7月に公表された平成24年1月1日現在の路線価は、駅東口前の「電車通り」が1平方メートル当り80万円と、市内最高地点の「天文館電車通り」の81万円に追いつきそうだ。全体的な下落傾向の中、ここは5年連続で横ばいを保っている。以前提唱した「交通史観」(※1)の法則のとおり、街の中心地は鉄道駅に引き寄せられている。平成21年には三越が撤退するなど、天文館地区の空洞化が懸念されている。郊外に開業した大型ショッピングモールの吸引力はあいかわらず強く、空洞化の傾向に拍車をかけている。勢いのある駅前地区といえども、車社会に適応した生活圏の郊外化に目をやれば楽観は難しい。

ショッピングモールの中の「まちづくり」

天文館地区はじめ昔からある中心街と駅前地区が共存し活性化する方策はないものか。郊外のショッピングモールにヒントがある。着目すべきはショッピングモール自体が計画的に整備されたひとつの「街」である点だ。現代のライフスタイルに合わせて進化した街が、町場のしがらみを避け辺境地に伸びていったと考える。内部構造に目をやると、核店舗につながるプロムナードに沿って専門店が門前町をなしている。自然発生した街と異なるのはそれが極めて計画的につくられていることである。プロムナードの最奥に集客装置を配置し、人を引き寄せ、広大なショッピングモールにまんべんなく人が行き交うような仕掛けがある。集客装置を「マグネット」ということもある。磁石のように引き寄せる様は遊園地でいうアトラクション (attraction)を連想させる。催事場、シネコン、職業体験施設「キッザニア」もそうだ。大型書店や家電量販店もたいがい建物の両端にある。観覧車が付いているショッピングモールも増えてきた。日曜日の昼下がり、大道芸やミニライブを目あてに中庭に人が集まっている。そぞろ歩いているだけで楽しい。見方によっては診療所も集客装置である。もっとも強力な集客装置は駅だ。駅前地区の核店舗は駅ビルのシネコン付ショッピングセンターである。新幹線で集めた人間を駅周辺から逃がさない戦略が当たった。

鹿児島市街図に越谷イオンレイクタウンと羽田空港ターミナルビルを重ねてみる

鹿児島市街図に越谷イオンレイクタウンと羽田空港ターミナルビルを重ねてみる

国内最大規模のショッピングモール、越谷イオンレイクタウン(埼玉県越谷市)と、羽田空港ターミナルビルのシルエットを同縮尺の鹿児島市の市街図と重ねてみた。羽田空港ターミナルビルはショッピングモールではないが、「街」を意識して計画的に作られている。国際線、第1、第2の各ターミナルビルからなり、それぞれ鉄道、バス、一部は「歩く歩道」で連結されている。広大なフロア内には「動く歩道」が張り巡らされており端から端まで移動してもストレスは少ない。


駅前地区、天文館地区、ウォーターフロント地区は羽田空港の国際線ターミナルビル、第1ターミナルビル、第2ターミナルビルと同じ位置関係。越谷イオンレイクタウンを構成する2棟は天文館地区とウォーターフロント地区と重なる。天文館地区のアーケード街は、越谷イオンレイクタウンを構成する1棟と重なる。


商業中心街を今風にして郊外に再構築したものが大型ショッピングモールと考えることができるならば、利害関係を乗り越えた上で、ショッピングモールのような中心街を元々あった場所に作れないかという発想が出てこよう。活性化基本計画の「天文館ショッピングモール化の推進」のように、商店街をショッピングモールに見立てるコンセプトだ。百貨店を核店舗、商店街を核店舗に連なる専門店街に見立てる統一イメージの下に改装し、そぞろ歩きを楽しめるプロムナードを整備する。この考え方を突き詰めたところが「高松丸亀町商店街」(※2)だろう。旧来の商店街を切り出して、上からショッピングモールを嵌め込んだようなつくりで、そこだけミラノのガレリアのようだ。アーケードが交差する広場に被る天蓋が雰囲気を醸し出す。

複数棟型ショッピングモールの発想を街全体へ

羽田空港ターミナルビルと越谷イオンレイクタウンが従来のショッピングモールと異なっているのは、1棟でなく複数の棟で成り立っていることだ。本稿のアイデアは、ショッピングモール単体に見立てた中心商店街の再生ではなく、複数棟で成り立っている羽田空港ターミナルビルや越谷イオンレイクタウンの集客と回遊の仕組みを、中心商店街を含む市街地全体の次元で展開できないかというものである。羽田空港ターミナルビルと越谷イオンレイクタウンの重ね地図の法則は金沢市、広島市にも当てはまった。金沢市の片町、香林坊、金沢駅前、広島市でいえば紙屋街、八丁堀、広島駅前の関係だ。旧来の中心地と駅前地区の一体的な活性化の課題は全国にある。複数の核を持つ都市の一体再生である。


具体的な論点は、複数核ながら一体性あるコンセプトをいかに策定し持続させるか。複数の核の距離感をいかに縮めるか。そして、街全体の集客装置を何にするか、誰が作るべきかである。羽田空港ターミナルビルや越谷イオンレイクタウンは、離れた棟ごとに個性があるが、同時に全体としての一体性が保たれている。「動く歩道」が隔絶性を緩めていると思われる。羽田空港はターミナルビルの間を鉄道やバスで連絡している。コンパクトシティにおける市内交通のあり方を考えるヒントとなる。


街全体のマグネット効果をもたらす集客装置をいかに配置するか。たとえば鹿児島市街なら鶴丸城址に接する「歴史と文化の道」や、水族館があるウォーターフロント地区がマグネットになりえる。新幹線に乗ってきた観光客を、中心市街地の最奥部のウォーターフロント地区に引き寄せ、帰りに天文館地区で買い物をしてもらう作戦だ。催事目あてで来たお客さまがエスカレーターで下りる途中で買い物をする「シャワー効果」と同じである。今年5月にシネマコンプレックス「天文館シネマパラダイス」が開業した。マグネット効果が期待される。


具体的にはどのような検討をすればよいか。街を訪れる「客層」と周辺の競合施設を調査して、もっとも入場者が見込める施設を選択するという手順になる。その後中心商店街へ回遊させるルートも計算する。回遊そのものを楽しめるようなプロムナードを整備し、距離によっては動く歩道でつなぐ必要もでてこよう。このあたりはマーケティング戦略と変わらない。

ショッピングモールに学ぶ市街地の全体戦略と集客装置の配置

集客装置としての公共施設は独立採算型PFIで

最後に、集客装置としての公共施設を誰が作るかである。本稿で提言したいポイントは、複数棟型ショッピングモールに内在する集客と回遊の戦略を改めて研究し、市街地全体にスコープを拡げて再現すべきということ。これを踏まえた上で、マグネットは官民が連携し、たとえば独立採算型PFIで整備すべきということだ。水族館、劇場、スタジアム、コンサートホール、鉄道駅その他ターミナル、そして総合病院もマグネットになりえるが、3大都市圏以外で民間企業の進出を待つのは採算の面からなかなか厳しい。郊外ならまだしも地価の高い中心市街地ならなおさらである。コンパクトシティなど明確なまちづくりコンセプトと、実現に向けた自治体のリーダーシップの重要性が増してくる。


一方で資金調達を含め民間の積極的なコミットメントも不可欠である。集客装置として有効な「キッザニア」も官営になるとおそらくは批判の末に閉鎖された「私のしごと館」のようになる。水族館にも、科学館かエンターティメントか二通りの運営コンセプトがあってどちらも重要だが、ことショッピングモールに倣って集客装置としての役割を期待するのであれば、エンターティメントに軸足を定めるべきだ。思い切って民間に経営を任せたほうがよいだろう。政策と所有は官、資金と経営は民の役割分担がある。まさに独立採算型PFIの出番だ(※3)。公的支出の節約にも貢献する。

(※1)2010年7月14日付大和総研コラム「交通史観が示唆する市街地活性化の行く末
あわせて次の記事も参照されたい。
2011年4月13日付コンサルティングインサイト「償却アプローチによるオフィスビル床面積の需要予測~札幌市と仙台市の事例付き~
2011年6月15日付コンサルティングインサイト「大震災で変わるまちづくりの発想 ~コンパクトシティ再考~
(※2)高松丸亀町商店街のインターネットサイト
(※3)老朽化した県営球場の改修にあたり独立採算型PFI(RTO)に近い方法を用いたことで、住民満足の向上、企業価値の拡大、公的支出の削減の三方一両得を実現した事例がある。この「クリネックススタジアム宮城」の事例を次の記事で紹介している。参照のこと。
2011年9月7日付コンサルティングインサイト「建設費延払型PFIから経営委託型PFIへ

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