中国の「上に政策あり、下に対策あり」現象をどう見るべきか

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中国には「上有政策、下有対策」という有名な言葉がある。元々は国に政策があれば、国の下にいる国民にはその政策に対応する策があるという意味だが、現在は「決定事項について人々が抜け道を考え出す」という意味でほとんど使われている。ここではいくつかの実例を挙げ、「上に政策あり、下に対策あり」の原因を探ってみる。

実例1:上海のナンバープレート規制
周知の通り、上海では交通渋滞をこれ以上悪化させないために、自動車のナンバープレート規制を数年前から導入している。高額な上海のナンバープレートではなく、安く入手できる地方のナンバープレートを取得する者が現われた。通勤ラッシュ時間に高架道路を走れないというような不便さを犠牲にすれば数万元を節約できる。自ら近隣の都市や自分の出身地まで出向いてナンバープレートを取得するか、時間的な余裕がなく実家が遠い人でも自動車販売店や専門業者を使って地方のナンバープレートを取得できる。

2010年7月18日に中国中央テレビ局の『経済信息聯播』で放送された「上海のナンバープレート価格続騰~地方ナンバープレート代行産業チェーンに拍車~」によると、安徽省阜陽市のナンバープレート(皖Kで始まる)取得の代行費用は最低4000元だが、実際の取得コストは1600元で、3000元近くが仲介会社のマージンとなっている。地方ナンバープレート取得代行業は儲かるビジネスで、上海ではどこに行っても代行業者を見つけることができる。また、地方のナンバープレートが盗まれたら再取得費用が発生するため、車から離れる際にはナンバープレートを外す慎重なマイカー所有者も現われている。なお、地方のナンバープレートを付けることで、車の法定検査ニーズも発生している。この代行業も上海では盛んである。

実例2:以旧換新(旧型家電の新型家電への買い替え促進策)
消費刺激策の一環として、2009年より旧型家電から省エネ新型家電への買替え促進策(以旧換新)が実施されたのに伴い、行政当局が予想していなかった産業チェーンが生れた。旧型家電を中古として100元程度で購入し、これを家電販売店に持ち込んで補助金を受け取って安く新型家電を購入する者が相次いだのである。量販店の販売員がこの方法を耳打ちし、自分の販売ノルマ達成を図るとともに、補助金のキックバックを得る例も多発したようだ。この結果、旧型家電が人気商品となり、まだ以旧換新が実施されていない周辺都市に出向き旧型家電の買い溜めをする中古家電屋まで現われた。

実例3:炭鉱リーダーが作業員と同時に炭坑を出入する国務院要求
炭鉱事故が相次ぎ発生し、安全対策がなかなか講じられない現状に対し、国務院は炭鉱リーダーも順番に作業員と一緒に炭坑に入るよう指示を出した。広西チワン族自治区河池市の朝陽炭鉱は、7名の炭鉱長アシスタントを任命して対応したことが中央人民放送局(CNR)で報道され、大きく批判された。この7名の炭鉱長アシスタントを炭鉱リーダーの代わりに炭鉱に出入りさせ、炭鉱長は今まで通りに安全なオフィスにいることを目論んだからである。

「上に政策あり、下に対策あり」がみられる原因は主に以下の4点と考えられる。

1) 最大限の利益追求
利益を追求するあまり、政策の本意を故意に歪曲したり、法律の抜け道を探す者が出てくる。いつの世にもこうした輩は存在する。

2) (公)権力の商品化
(公)権力の商品化とは、権力を資本に利益を追求することを指す。実例2で販促員がノルマを達成するために、旧型家電の仲介役となったのは多少関係しているかもしれない。ノルマを達成できれば収入も増え、中古で旧型家電を買う方法を消費者に仲介すれば、キックバックを受けることもできる。国に損をもたらしていることが分かっていても、自分にメリットがあれば、役得とばかりに自分の手にある「権力」を利用して、消費者に新型家電を買ってもらうという考え方が芽生えるのだ。家電量販店にとっても、市場シェアを拡大できるので、故意にこの方法を黙認し、あるいは影で便宜を図ることすらあったようだ。
実例3で言及した炭鉱事故のケースでも公権力の商品化がうかがえる。役人と炭鉱側との結託は、公権力が炭鉱の経営に不当に介入したことで発生した権力の腐敗である。役人が安全基準を下回る小型炭鉱に対して、見のがす代わりに利益を享受したり、賄賂を受け取って炭鉱企業のために採鉱許可証、炭鉱生産許可証を発行したり、役人やその家族が炭鉱主または株主の場合に作業員の安全確保や政策の権威性を無視することもあるようだ。国が炭鉱リーダーに作業員と共に炭鉱に入ることを求めたのは、このような役人と炭鉱側の結託を牽制する狙いがある。

3) 政策の欠陥
政策の欠陥としては、度重なる政策変更や、政策が複数の部門から出されるなどに起因する合理性の欠如、整備の不足や相矛盾する政策の実行などがある。実例1のナンバープレートの場合、ナンバープレート規制は上海に限って実施されている。実例2の家電買い替え促進策は当初、地域を限定して実施されたため、お金の匂いに敏感な一部の人が「ビジネス」を新規創出して産業チェーンにしてしまった。炭鉱の場合の安全対策で政府の期待が裏切られたのも、政策の欠陥という一面を指摘できる。

4) 政策実行時の監督欠如、管理不行届き
消費刺激や省エネ推進に寄与するはずの家電買替え促進策が、金儲けの手段として利用されているのは皮肉だが、監督管理方法や規定違反の場合の罰則、監督管理部門が不作為の場合に対応策に不備があるなども要因と考えられる。実例3のケースでは、炭鉱リーダーに自ら炭坑に入ってもらい、炭鉱の安全性を高めることが目的だったはずだが、広西のこの炭鉱のリーダーは自ら危険な炭鉱入りは避けたかったのだろう、身代わり役をたてる「創意ある解決策」を考え出した。ほかの炭鉱も同様に、あるいはもっと悪意ある解決策を出している可能性もある。一方、この国務院要求が出されてから10日間に全国各地で少なくとも4件の炭鉱事故が発生したようだ。事故発生時に作業員と本物の炭鉱リーダーが一緒に炭鉱内にいたかどうかは疑問である。政策の実施についての監督管理が欠如している、少なくても不行届きなところがあったと考えるしかない。

「上に政策あり、下に対策あり」は諸外国でも見られる現象かもしれないが、中国の実情を例示で伝えると以上のようになる。ところで、実例1の問題は、上海のナンバープレート規制政策が実施されている限りなくならないだろう。しかし、上海のナンバープレート規制は万博閉幕後に撤廃されるとも言われ、そのうち代行ビジネスは姿を消すのかもしれない。実例2については政府部門も気づいており、政策の改正や罰則の明確化を行い、ある程度の効果を収めるようになったと聞く。実例3については、まだ報道の段階にあり、政府もどのような手を打つべきか目下検討中のようである。そもそも中国の法整備はまだまだ発展途上で不十分なところが少なくない。当面は問題が顕在化するたびに、ひとつひとつその芽を摘み取っていくほかはないのかもしれない。


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