2012年01月25日
サマリー
原油などコモディティ価格が高止まりする中で、それらの生産地政府による政府系ファンドの設立が盛んになっている。政府系ファンドは1950年代から設立されており、合計件数は60件に達しようとしている。2005年から2008年にかけて20件近く設立され、2000年以降に設立されたものが過半になった。その後、原油・ガス価格の急落により設立にブレーキがかかったが、2011年には5件が設立されており、新設ブームを迎えつつある。
現在設立を検討中の政府としては、シリア、サスカチュワン州(カナダ)、ウクライナ、イスラエルなどがあるし、インドやタイでもたびたび設立の是非が論じられている。南スーダン、アンゴラ、スリナムといったアフリカ諸国でも設立の可能性があるようだ。また、既に政府系ファンドを有している国々の間でも、新たなファンドの設立をすすめる動きもある。新規政府系ファンドの多くは比較的小規模だが、外貨準備の効果的な利用を目指した中国投資有限責任公司(CIC)のように設立後4年で資産高4,000億ドルを超え世界でも指折りの規模にまでなったところもある。原油などの売却代金をもとに組成される政府系ファンドの場合にも、政策とコモディティ価格の動向によっては、資金が急増することもあり得る。
このような設立動向を見る限り、各国政府の意思が反映される投資資金が世界で膨張し続けているのは確かだろう。欧州のソブリン債務危機では、中東やアジアの政府系ファンドの投資動向によって投資家は一喜一憂する状況であるし、エネルギー投資やインフラ投資の世界でもこれらの資金に大きな期待が集まっている。流動性を重視せず、また時価の適時把握の必要性も薄い政府系ファンドは、長期の開発投資にフィットするので高成長が見込める東・南アジアやアフリカなどへ向かうのではないかとも見られている。既に世界の対外直接投資の5分の2は新興国向けである一方、5分の1は新興国が行う投資となっている(※1)。
政府系ファンドは、猛威を振るったかに見えた2007年の頃よりも資産総額がはるかに大きくなっているが、投資を受け入れる国々の間では、当時のような警戒感は聞かれない。投資先企業や投資先国の産業政策へ、政府系ファンドが投資家の地位を利用してなんらかの影響を及ぼす恐れが完全に払拭されたわけではない。しかし、深刻な危機が続く中では、新たな資金を誘致するための外交努力を競い合うような状況だ。国際的な資金の循環を促進するという観点からは政府系ファンドが仲介機能を果たすことを期待できるだろう。世界的な金融危機の中で政府系ファンドの資金力に対する期待はますます強くなっている。

(※1)MIGA「World Investment and Political Risk」
現在設立を検討中の政府としては、シリア、サスカチュワン州(カナダ)、ウクライナ、イスラエルなどがあるし、インドやタイでもたびたび設立の是非が論じられている。南スーダン、アンゴラ、スリナムといったアフリカ諸国でも設立の可能性があるようだ。また、既に政府系ファンドを有している国々の間でも、新たなファンドの設立をすすめる動きもある。新規政府系ファンドの多くは比較的小規模だが、外貨準備の効果的な利用を目指した中国投資有限責任公司(CIC)のように設立後4年で資産高4,000億ドルを超え世界でも指折りの規模にまでなったところもある。原油などの売却代金をもとに組成される政府系ファンドの場合にも、政策とコモディティ価格の動向によっては、資金が急増することもあり得る。
このような設立動向を見る限り、各国政府の意思が反映される投資資金が世界で膨張し続けているのは確かだろう。欧州のソブリン債務危機では、中東やアジアの政府系ファンドの投資動向によって投資家は一喜一憂する状況であるし、エネルギー投資やインフラ投資の世界でもこれらの資金に大きな期待が集まっている。流動性を重視せず、また時価の適時把握の必要性も薄い政府系ファンドは、長期の開発投資にフィットするので高成長が見込める東・南アジアやアフリカなどへ向かうのではないかとも見られている。既に世界の対外直接投資の5分の2は新興国向けである一方、5分の1は新興国が行う投資となっている(※1)。
政府系ファンドは、猛威を振るったかに見えた2007年の頃よりも資産総額がはるかに大きくなっているが、投資を受け入れる国々の間では、当時のような警戒感は聞かれない。投資先企業や投資先国の産業政策へ、政府系ファンドが投資家の地位を利用してなんらかの影響を及ぼす恐れが完全に払拭されたわけではない。しかし、深刻な危機が続く中では、新たな資金を誘致するための外交努力を競い合うような状況だ。国際的な資金の循環を促進するという観点からは政府系ファンドが仲介機能を果たすことを期待できるだろう。世界的な金融危機の中で政府系ファンドの資金力に対する期待はますます強くなっている。

(※1)MIGA「World Investment and Political Risk」
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
同じカテゴリの最新レポート
-
「少額投資の在り方に関する勉強会」報告書
東証は上場会社、投資家向けの情報発信などを強化
2025年04月28日
-
IR体制の整備の義務化
パブリック・コメントの開始/7月を目途に実施予定
2025年04月23日
-
個人株主の議決権行使比率は高められるか
「飛び道具」は無いため、株主負担の地道な引き下げが重要
2025年03月26日
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
トランプ関税で日本経済は「漁夫の利」を得られるか?
広範な関税措置となっても代替需要の取り込みで悪影響が緩和
2025年03月03日
-
地方創生のカギとなる非製造業の生産性向上には何が必要か?
業種ごとの課題に応じたきめ細かい支援策の組み合わせが重要
2025年03月12日
-
中国:全人代2025・政府活動報告を読み解く
各種「特別」債で金融リスク低減と内需拡大を狙う
2025年03月06日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
-
2025年の日本経済見通し
1%台半ばのプラス成長を見込むも「トランプ2.0」で不確実性大きい
2024年12月20日
トランプ関税で日本経済は「漁夫の利」を得られるか?
広範な関税措置となっても代替需要の取り込みで悪影響が緩和
2025年03月03日
地方創生のカギとなる非製造業の生産性向上には何が必要か?
業種ごとの課題に応じたきめ細かい支援策の組み合わせが重要
2025年03月12日
中国:全人代2025・政府活動報告を読み解く
各種「特別」債で金融リスク低減と内需拡大を狙う
2025年03月06日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
2025年の日本経済見通し
1%台半ばのプラス成長を見込むも「トランプ2.0」で不確実性大きい
2024年12月20日