サマリー
◆2024年7月3日、5年に一度の公的年金財政検証の結果が公表された。今回は将来の社会・経済状況について4つのケースが設定され、経済成長率がほぼゼロにとどまる「過去30年投影ケース」でも、将来の所得代替率は50%を維持できる見通しが示された。また、一段の労働参加を見込む高成長のケースでは、所得代替率は50%後半を確保でき、実質ベースで年金額が増える見通しである。より手厚い年金給付を維持するには、労働参加が進展し高めの経済成長を実現できる社会を目指す必要がある。
◆今回の検証結果を見ると、女性や高齢者の積極的な労働参加の進展や好調な積立金運用により、過去と比べて将来の見通しが改善している。2023年度の年金財政の運用収入を除く収支は、前回検証時の赤字の見通しから黒字に転換し、積立金を活用しなくても給付費を賄える状況となった。将来世代の給付に活用できる積立金残高の増加により、長期的な財政収支バランスが改善している。
◆また、今回の検証ではじめて、将来の年金額の分布推計が実施された。特に女性においては、積極的な労働参加に伴い厚生年金被保険者期間が延伸することから、平均年金額の水準が高まり、また、低年金が解消に向かう明るい見通しが示された。
◆前回同様、今後の制度改正をにらんだオプション試算も実施された。被用者保険の更なる適用拡大については、まずは、企業規模要件の撤廃と5人以上個人事業所の非適用業種の廃止を着実に進め、最終的には週20時間未満の短時間労働者への適用も目指すべきだろう。65歳以上に対する在職老齢年金制度は、就労意欲に対する影響を見極めつつ、高齢期の就労を阻害しない制度のあり方についての再検討が求められる。
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