サマリー
◆公的医療サービスは全国どこでも同じ価格で提供されているにもかかわらず、年齢構成の違いを調整してもなお、1人当たり医療費の地域差が大きい。疾病構造の違いや医療の供給体制の効率性、住民の受診行動などによる構造的な課題が背景にあると考えられる。医療費の地域差は特に入院で生じており、病床数の多寡が強く影響している。
◆後発医薬品の使用割合は、医療関係者、保険者、自治体などの努力もあって全都道府県で上昇しているが、地域差が見られる。また、一部の地域では医療扶助(生活保護)における後発医薬品の使用割合が医療全体を下回っているという課題もある。
◆最近、患者の受診行動や診療行為に関する地域差の分析が示されるようになっている。医療情報の活用という観点から、厚生労働省から「第1回NDBオープンデータ」が公表された意義は大きい。集計データゆえ誰でも自由に利用できるデータであり、医療費の地域差などの実態解明がさらに進むことが期待される。
◆政府は、年齢調整後1人当たり医療費の地域差半減を目指しており、「地域医療構想」「医療費適正化計画」「健康増進のためのインセンティブ強化」が主な手段である。だが、地域医療構想の実現性には不透明さが残っていることに加え、それを実現した場合に入院医療費の地域差がどの程度是正されるかは明らかになっていない。また、医療費適正化計画を進めたとしても1人当たり外来医療費の地域差を半減させることはできず、追加の抑制策が必要とされている。
◆入院・外来の両分野で改革が一定の成果を上げると想定したとしても、国民医療費は年間1兆円程度のペースで増加すると見込まれている。これを地域別に捉えれば、高齢者数が増える大都市部を中心に入院医療費が増加し、地方での医療費減少分の多くが相殺されるという構図になるだろう。年齢調整後1人当たり入院医療費の不合理な地域差を是正するには、地域医療構想による病床数の適正化以外の政策的手段の検討も必要ではないか。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
同じカテゴリの最新レポート
-
医療等情報の二次利用に向けた環境整備
医療DXの効果を可視化し、一次利用を広げることがカギ
2025年06月12日
-
対象者拡大から8年、今後のiDeCoの可能性
iDeCo加入者数363万人(2025年3月末)、対象者拡大前の12倍に
2025年05月27日
-
DC自動移換者問題の解決に向けて
自動移換者を「発生させない」「増やさない」対策が求められる
2025年03月03日
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
日本経済見通し:2025年4月
足元の「トランプ関税」の動きを踏まえ、実質GDP見通しなどを改訂
2025年04月23日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
-
信用リスク・アセットの算出手法の見直し(確定版)
国際行等は24年3月期、内部モデルを用いない国内行は25年3月期から適用
2022年07月04日
-
「反DEI」にいかに立ち向かうか
米国における「DEIバックラッシュ」の展開と日本企業への示唆
2025年05月13日
-
中国:関税115%引き下げ、後は厳しい交渉へ
追加関税による実質GDP押し下げ幅は2.91%→1.10%に縮小
2025年05月13日
日本経済見通し:2025年4月
足元の「トランプ関税」の動きを踏まえ、実質GDP見通しなどを改訂
2025年04月23日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
信用リスク・アセットの算出手法の見直し(確定版)
国際行等は24年3月期、内部モデルを用いない国内行は25年3月期から適用
2022年07月04日
「反DEI」にいかに立ち向かうか
米国における「DEIバックラッシュ」の展開と日本企業への示唆
2025年05月13日
中国:関税115%引き下げ、後は厳しい交渉へ
追加関税による実質GDP押し下げ幅は2.91%→1.10%に縮小
2025年05月13日