人材不足が課題の「介護離職ゼロ」

スウェーデンの取り組みを参考に

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2016年01月28日

サマリー

◆2025年には、いわゆる団塊の世代(1947~49年出生)が後期高齢者(75歳以上)に到達し、介護需要の拡大が懸念される。安倍政権では「介護離職ゼロ」の実現に向け、介護施設を増設・整備する方針を打ち出しているが、人材不足の問題が解消されなくては施設を開設することも難しい。限られた時間の中で対策を見出さなければ、介護離職の急増、さらにそれに伴う経済成長の減速も懸念される。今後10年間の介護政策は、最重要課題とも位置づけられよう。


◆介護人材不足の背景には、産業全体と比較して労働時間が長く、賃金水準が低いことがある。年功序列賃金の傾向があまり見られず、年齢が上がっても賃金の上昇が限定的であるため離職率も高い。人材不足を外国人労働者で補うとの意見もあるが、受け入れに関する議論は難航している。


◆高福祉国として知られるスウェーデンでは、高齢者ケアに関する一部の医療の権限を看護師やアンダーナースに委譲することで人材不足を補っている。また、自治体ごとに必要な介護職員の育成を積極的に行っており、移民に対しても広く門戸を開いている。さらに、「同一労働・同一賃金」の原則を徹底することで、パートタイムの多い介護職員の就労意欲を維持させる仕組みも整備されている。


◆日本だけでなく、中国、韓国、タイ、シンガポールなどで、今後日本と同様に介護人材不足が深刻化する懸念がある。現状、高齢者介護を伝統的な家族に依存しているアジア諸国において、介護の社会化やサービスの市場化が本格化したとき、日本を含むアジア各国で介護人材の獲得競争が激化しよう。国内で人材不足が明らかと言える介護職については、早い段階で外国人労働者の受け入れを拡大していくことが現実的といえよう。


◆子ども・子育て支援強化策の一つとして、三世代同居に係る税制上の軽減措置の創設が盛り込まれ、副次的な効果として家庭内介護による介護費用の抑制が期待されている。しかし、伝統的な家族形態の衰退は福祉国家の結果ともいえ、三世代同居が政策として提言されること自体が、社会保障制度の綻びを意味していると言えよう。社会サービスの強化によって超高齢社会における「介護離職ゼロ」の実現が求められるべきであろう。

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