サマリー
◆2025年には、いわゆる団塊の世代(1947~49年出生)が後期高齢者(75歳以上)に到達し、介護需要の拡大が懸念される。安倍政権では「介護離職ゼロ」の実現に向け、介護施設を増設・整備する方針を打ち出しているが、人材不足の問題が解消されなくては施設を開設することも難しい。限られた時間の中で対策を見出さなければ、介護離職の急増、さらにそれに伴う経済成長の減速も懸念される。今後10年間の介護政策は、最重要課題とも位置づけられよう。
◆介護人材不足の背景には、産業全体と比較して労働時間が長く、賃金水準が低いことがある。年功序列賃金の傾向があまり見られず、年齢が上がっても賃金の上昇が限定的であるため離職率も高い。人材不足を外国人労働者で補うとの意見もあるが、受け入れに関する議論は難航している。
◆高福祉国として知られるスウェーデンでは、高齢者ケアに関する一部の医療の権限を看護師やアンダーナースに委譲することで人材不足を補っている。また、自治体ごとに必要な介護職員の育成を積極的に行っており、移民に対しても広く門戸を開いている。さらに、「同一労働・同一賃金」の原則を徹底することで、パートタイムの多い介護職員の就労意欲を維持させる仕組みも整備されている。
◆日本だけでなく、中国、韓国、タイ、シンガポールなどで、今後日本と同様に介護人材不足が深刻化する懸念がある。現状、高齢者介護を伝統的な家族に依存しているアジア諸国において、介護の社会化やサービスの市場化が本格化したとき、日本を含むアジア各国で介護人材の獲得競争が激化しよう。国内で人材不足が明らかと言える介護職については、早い段階で外国人労働者の受け入れを拡大していくことが現実的といえよう。
◆子ども・子育て支援強化策の一つとして、三世代同居に係る税制上の軽減措置の創設が盛り込まれ、副次的な効果として家庭内介護による介護費用の抑制が期待されている。しかし、伝統的な家族形態の衰退は福祉国家の結果ともいえ、三世代同居が政策として提言されること自体が、社会保障制度の綻びを意味していると言えよう。社会サービスの強化によって超高齢社会における「介護離職ゼロ」の実現が求められるべきであろう。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
執筆者のおすすめレポート
同じカテゴリの最新レポート
-
イタリアISEEに学ぶ、社会保障給付の簡素な判定の仕組み
世帯の所得・資産を一つの指標にまとめる仕組みと、日本の社会保障制度への示唆
2026年10月14日
-
第3号被保険者制度見直しの財政改善効果は厚生年金保険料率0.1%pt分程度
第3号被保険者制度見直しの財政影響を試算
2026年09月25日
-
現役世代の保険料率は引き下げられるか
サービス維持との両立には、給付と負担の改革、DX/AX推進が不可欠
2026年09月02日
最新のレポート・コラム
-
一括取得型自己株式取得(ASR)入門
ASRに関する基本的な事項をQ&A形式で解説
2026年10月16日
-
「次期学習指導要領等に向けた審議まとめ」における金融経済教育に関する記述
金融経済教育関連に限ると、大幅な拡充は行われない方向性か
2026年10月16日
-
日本の長期金利、2035年に5%台の可能性
2035年に3.5~4.2%程度で、海外保有拡大で1%pt超の上乗せも
2026年10月16日
-
なぜ企業は同じ情報を何度も提出しなければならないのか
公的統計のデジタル化を問う①-負担軽減の「効果」
2026年10月16日
-
成長投資の先にあるもの ~AI時代に問われる「組織能力」~
2026年10月16日
よく読まれているリサーチレポート
-
国税庁が非上場株式評価の方向性を公表
簿価純資産と収益力で評価する「残余利益方式」に統一の方向
2026年09月08日
-
GPIF経営委員会の8月開催が意味すること
基本ポートフォリオ見直しに向けて第一歩を踏み出したのか
2026年09月01日
-
日米協調介入は円安の是正にどこまで効果を発揮したのか?
更なる介入の合理性は低下。レジーム転換の有無が今後の焦点に
2026年09月14日
-
コーポレートガバナンス・コード改訂の焦点
企業の自律的な判断と実質を伴う説明が問われる
2026年08月27日
-
第230回日本経済予測(改訂版)
円安・金利上昇下の日本経済と成長力強化への課題①AI活用による経済への影響、②資産市場と経済の好循環、を検証
2026年09月08日
国税庁が非上場株式評価の方向性を公表
簿価純資産と収益力で評価する「残余利益方式」に統一の方向
2026年09月08日
GPIF経営委員会の8月開催が意味すること
基本ポートフォリオ見直しに向けて第一歩を踏み出したのか
2026年09月01日
日米協調介入は円安の是正にどこまで効果を発揮したのか?
更なる介入の合理性は低下。レジーム転換の有無が今後の焦点に
2026年09月14日
コーポレートガバナンス・コード改訂の焦点
企業の自律的な判断と実質を伴う説明が問われる
2026年08月27日
第230回日本経済予測(改訂版)
円安・金利上昇下の日本経済と成長力強化への課題①AI活用による経済への影響、②資産市場と経済の好循環、を検証
2026年09月08日

