サマリー
◆1億総活躍社会の実現を掲げる安倍政権では、正規雇用(正規)や非正規雇用(非正規)といった雇用形態の違いによる処遇格差を解消する「同一労働同一賃金」の実現を目指している。雇用者の約4割を占める非正規の賃金上昇を促し、個人消費の活性化など経済の好循環となることが期待されているようだ。
◆ただし、職務や職能、勤務地、勤務時間などを詳細に規定して契約する欧米型の「同一労働同一賃金」をそのまま日本の雇用システムに導入しても馴染みにくく、また、コスト増を意味する非正規の処遇改善は、企業収益を押し下げかねないことから容易に進まない懸念がある。
◆他方、スウェーデンでは「同一労働同一賃金」の原則を徹底しつつも、高い生産性と経済の効率性を実現している。「同一労働同一賃金」を含む労働政策によって国民に能力向上と就労を要求し続ける一方、産業構造の転換や次世代産業の育成についても果敢に取り組むスウェーデンは、企業や産業ではなく、人を重視した戦略を実践することで、国際競争力を高めてきた。そのため、同一労働に従事するパートタイム労働者の賃金は、フルタイム労働者の時間比例分とする同一賃金の仕組みが整っている。
◆労働力人口の減少が問題となりつつある国内では、正規との差が著しい非正規の賃金や待遇の改善が必要とされているが、それ以前に、一度非正規となることで失われがちな職業訓練機会を公的支援で補うほか、人材力の強化を促すような周辺制度の見直しが必要だろう。さらに、経済の新陳代謝を図り産業構造の転換を果敢に進める政治的リーダーシップについても、経済の好循環を目指す上では不可欠と思われる。「人」重視の政策へ転換することで、1億総活躍社会は効果的に機能するのかもしれない。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
同じカテゴリの最新レポート
-
企業が今取り組むべき健康施策のポイント(後編)
健康投資の拡大と実効性向上に向けたデータ活用
2026年08月03日
-
企業が今取り組むべき健康施策のポイント(前編)
2026年度健康経営度調査にみる重点施策の方向性
2026年07月28日
-
高市政権のイノベーション政策の論点
テキスト分析でみる「統合イノベーション戦略2026」
2026年07月22日
最新のレポート・コラム
-
一括取得型自己株式取得(ASR)入門
ASRに関する基本的な事項をQ&A形式で解説
2026年10月16日
-
「次期学習指導要領等に向けた審議まとめ」における金融経済教育に関する記述
金融経済教育関連に限ると、大幅な拡充は行われない方向性か
2026年10月16日
-
日本の長期金利、2035年に5%台の可能性
2035年に3.5~4.2%程度で、海外保有拡大で1%pt超の上乗せも
2026年10月16日
-
なぜ企業は同じ情報を何度も提出しなければならないのか
公的統計のデジタル化を問う①-負担軽減の「効果」
2026年10月16日
-
成長投資の先にあるもの ~AI時代に問われる「組織能力」~
2026年10月16日
よく読まれているリサーチレポート
-
国税庁が非上場株式評価の方向性を公表
簿価純資産と収益力で評価する「残余利益方式」に統一の方向
2026年09月08日
-
GPIF経営委員会の8月開催が意味すること
基本ポートフォリオ見直しに向けて第一歩を踏み出したのか
2026年09月01日
-
日米協調介入は円安の是正にどこまで効果を発揮したのか?
更なる介入の合理性は低下。レジーム転換の有無が今後の焦点に
2026年09月14日
-
コーポレートガバナンス・コード改訂の焦点
企業の自律的な判断と実質を伴う説明が問われる
2026年08月27日
-
第230回日本経済予測(改訂版)
円安・金利上昇下の日本経済と成長力強化への課題①AI活用による経済への影響、②資産市場と経済の好循環、を検証
2026年09月08日
国税庁が非上場株式評価の方向性を公表
簿価純資産と収益力で評価する「残余利益方式」に統一の方向
2026年09月08日
GPIF経営委員会の8月開催が意味すること
基本ポートフォリオ見直しに向けて第一歩を踏み出したのか
2026年09月01日
日米協調介入は円安の是正にどこまで効果を発揮したのか?
更なる介入の合理性は低下。レジーム転換の有無が今後の焦点に
2026年09月14日
コーポレートガバナンス・コード改訂の焦点
企業の自律的な判断と実質を伴う説明が問われる
2026年08月27日
第230回日本経済予測(改訂版)
円安・金利上昇下の日本経済と成長力強化への課題①AI活用による経済への影響、②資産市場と経済の好循環、を検証
2026年09月08日

