移転価格税制に関する文書化制度の改正

提供情報の各国間共有により、新興国から課税されるリスクが増大

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2016年07月06日

サマリー

◆近年、経済のグローバル化に伴うビジネスモデルの構造変化に各国の税制が追い付いておらず、欧米の一部の多国籍企業が各国の税制の隙間を利用して課税逃れを行う問題が生じている。OECDとG20がこの問題に対処するプロジェクトに取り組み、2015年10月に15項目にわたる勧告を行った。


◆その中で、移転価格税制に関する文書提出制度を見直し、多国籍企業情報の報告制度の整備に関する勧告を行った。これは、多国籍企業グループが税務当局に提出する文書として、グループの全体像を記載する「マスターファイル」、国ごとの収入や納税額を記載する「国別報告書」、移転価格税制で問題となる個々のグループ間取引について記載する「ローカルファイル」を整備するよう、各国に勧告するものである。これらの文書提出制度が整備されれば、各国税務当局は多国籍企業グループについて、これまで入手できなかった情報を入手できるようになる。


◆上記勧告を受け、我が国では平成28年度の租税特別措置法の改正により、上記3種類の文書提出(移転価格文書化)制度を整備した。「マスターファイル」および「国別報告書」については、総収入金額が1,000億円以上の多国籍企業グループが税務当局に提供することが求められる(適用は平成28年4月1日以後に開始する事業年度から)。「ローカルファイル」については、グループ間取引を行った法人に対して、確定申告期限までに作成することや、税務当局から求められた場合に一定期限内に提出することが求められる(適用は平成29年4月1日以後に開始する事業年度から)。


◆OECDおよびG20のプロジェクトには有力な新興国も参加しており、これらの国でも同様な文書提出制度が整備されることが期待される。しかし、近年、日本の企業グループが中国・インド・インドネシアなどの新興国から不適切な課税を受ける事案が多発しており、これらの税務当局に提出される日本の企業グループの情報が拡充された場合、不適切な課税がなされる懸念が増大することとなる。

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