サマリー
◆8月のCPIが市場予想を上回ったことで、市場ではインフレが高止まりするのではないかとの懸念が再び強まった。結果、市場は利上げの最終到達点(ターミナルレート)が引き上げられ、利上げ期間も長期化するとの予想を強めた。つまり、市場は金融政策の先行きを再検討し始めたといえる。FRBにとってはインフレの高止まりを防ぐために金融環境を引き締める必要があることから、市場がインフレの高止まりに警戒感を強めたことは好都合とも捉えられる。
◆他方で、市場が金融政策の先行きを再検討し始めたことは、FRBが直面する厄介事も増える。足下ではインフレが減速していく兆候も見られることから、利上げペースの緩和を検討し始めるには適したタイミングである。しかし、FRBは金融環境を引き締め続けるために、市場よりもタカ派的な姿勢を維持する必要があり、利上げペースの緩和といったハト派シグナルは出しにくい。結果的に政策変更が遅延する可能性があるだろう。
◆金融引き締めが続く中で、金融環境が急激にタイト化し、個人消費への逆資産効果を通じて景気を下押しする恐れがある。FRBはインフレ抑制に向けて、景気悪化を招くことも辞さないとの姿勢を示しているが、実際に景気悪化に直面すればFOMC参加者の中でも意見が分かれる可能性は残る。FRBが一枚岩であることを維持できなければ、市場は金融政策運営に対してさらに疑心暗鬼になり、金融環境は一層ストレスを増すことになりかねない。
◆市場の疑念を解決できるのは結局のところはFRBしかない。9月のFOMCで公表予定のドットチャートやSEP(FOMC参加者による経済見通し)を活用しながら、景気・金融政策の見通しを明確に示せるかが米国経済の先行きを考える上での最大のポイントといえる。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
関連のレポート・コラム
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
日本経済見通し:2024年2月
2025年度にかけて1%前後のプラス成長と2%インフレを見込む
2024年02月22日
-
ビットコイン現物ETF、日本で組成可能か?
米SEC承認を受けて、日本で導入することの法制度上の是非を考察
2024年02月13日
-
第220回日本経済予測(改訂版)
賃上げの持続力と金融政策正常化の行方①自然利子率の引き上げ、②投資と実質賃金の好循環、を検証
2024年03月11日
-
日本経済見通し:2024年3月
24年の春闘賃上げ率5%超えを受け、日銀はマイナス金利政策を解除
2024年03月22日
-
2024年の日本経済見通し
緩やかな景気回復と金融政策の転換を見込むも海外経済リスクに注意
2023年12月21日
日本経済見通し:2024年2月
2025年度にかけて1%前後のプラス成長と2%インフレを見込む
2024年02月22日
ビットコイン現物ETF、日本で組成可能か?
米SEC承認を受けて、日本で導入することの法制度上の是非を考察
2024年02月13日
第220回日本経済予測(改訂版)
賃上げの持続力と金融政策正常化の行方①自然利子率の引き上げ、②投資と実質賃金の好循環、を検証
2024年03月11日
日本経済見通し:2024年3月
24年の春闘賃上げ率5%超えを受け、日銀はマイナス金利政策を解除
2024年03月22日
2024年の日本経済見通し
緩やかな景気回復と金融政策の転換を見込むも海外経済リスクに注意
2023年12月21日