米国経済見通し 関税導入で高まるリスク

輸入価格の上昇や対抗措置は米国にとってネガティブ

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2018年03月23日

  • ロンドンリサーチセンター シニアエコノミスト(LDN駐在) 橋本 政彦

サマリー

◆トランプ大統領は以前より貿易赤字を強く問題視し、保護貿易主義的な政策を主張してきたが、そうした政策の実行が本格化している。トランプ大統領は3月8日、鉄鋼に25%、アルミに10%の輸入関税を課す大統領令に署名し、3月22日には、中国による不正な技術移転や知的財産権侵害に対する制裁措置を発動する大統領覚書に署名した。

◆鉄鋼・アルミに対する関税については、そもそも鉄鋼・アルミの輸入が米国の輸入全体に占める割合は2%程度にすぎないことに加え、輸入相手先上位の国が適用除外となったことで、貿易、および米国経済への影響は非常に軽微に留まる可能性が高い。

◆中国向けの関税措置については、最大600億ドル規模の製品に対して関税を課すとしているが、まだ具体的な内容は決まっていない。今後、USTR(米国通商代表部)が関税対象となる品目のリストを作成し、議員や業界団体などからのパブリック・コメントを経た上で実行に移されることになっている。ただし、中国に対する関税措置は、WTOルールに抵触する可能性が高く、実効性については現時点では判断できない。

◆仮に中国向けの関税措置が実施された場合、米国経済にとってもネガティブに作用することになろう。中国の相対的に安価な労働力によって生産された加工組立製品に関税が課されたとして、米国内で生産が代替されるとは考え難く、結局は輸入価格の上昇を企業や家計が負担することになる可能性が高い。さらに、中国によって対抗措置が取られれば、米国の輸出を抑制する要因になる。

◆米国経済は、足下まで堅調な状況が続いているが、とりわけ企業部門の堅調さの背景の1つには輸出の好調さがあると考えられる。米国の保護貿易的な政策を発端にして、世界的に貿易戦争の様相を呈することになれば、米国経済への悪影響は避けられないとみられ、今後の議論の進展を注視していく必要がある。

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