サマリー
◆トランプ大統領は以前より貿易赤字を強く問題視し、保護貿易主義的な政策を主張してきたが、そうした政策の実行が本格化している。トランプ大統領は3月8日、鉄鋼に25%、アルミに10%の輸入関税を課す大統領令に署名し、3月22日には、中国による不正な技術移転や知的財産権侵害に対する制裁措置を発動する大統領覚書に署名した。
◆鉄鋼・アルミに対する関税については、そもそも鉄鋼・アルミの輸入が米国の輸入全体に占める割合は2%程度にすぎないことに加え、輸入相手先上位の国が適用除外となったことで、貿易、および米国経済への影響は非常に軽微に留まる可能性が高い。
◆中国向けの関税措置については、最大600億ドル規模の製品に対して関税を課すとしているが、まだ具体的な内容は決まっていない。今後、USTR(米国通商代表部)が関税対象となる品目のリストを作成し、議員や業界団体などからのパブリック・コメントを経た上で実行に移されることになっている。ただし、中国に対する関税措置は、WTOルールに抵触する可能性が高く、実効性については現時点では判断できない。
◆仮に中国向けの関税措置が実施された場合、米国経済にとってもネガティブに作用することになろう。中国の相対的に安価な労働力によって生産された加工組立製品に関税が課されたとして、米国内で生産が代替されるとは考え難く、結局は輸入価格の上昇を企業や家計が負担することになる可能性が高い。さらに、中国によって対抗措置が取られれば、米国の輸出を抑制する要因になる。
◆米国経済は、足下まで堅調な状況が続いているが、とりわけ企業部門の堅調さの背景の1つには輸出の好調さがあると考えられる。米国の保護貿易的な政策を発端にして、世界的に貿易戦争の様相を呈することになれば、米国経済への悪影響は避けられないとみられ、今後の議論の進展を注視していく必要がある。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
同じカテゴリの最新レポート
-
FOMC 様子見姿勢を強調
景気・インフレに加え、金融環境の変化が利下げのタイミングを左右
2025年05月08日
-
非農業部門雇用者数は前月差+17.7万人
2025年4月米雇用統計:景気への不安が高まる中で底堅い結果
2025年05月07日
-
米GDP 前期比年率▲0.3%とマイナスに転換
2025年1-3月期米GDP:追加関税を背景とした駆け込み輸入が下押し
2025年05月01日
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
「相互関税」による日本の実質GDPへの影響は最大で▲1.8%
日本に対する相互関税率は24%と想定外に高い水準
2025年04月03日
-
「相互関税」を受け、日米欧中の経済見通しを下方修正
2025年の実質GDP成長率見通しを0.4~0.6%pt引き下げ
2025年04月04日
-
米国による25%の自動車関税引き上げが日本経済に与える影響
日本の実質GDPを0.36%押し下げる可能性
2025年03月27日
-
2025年の日本経済見通し
1%台半ばのプラス成長を見込むも「トランプ2.0」で不確実性大きい
2024年12月20日
-
日本経済見通し:2025年3月
トランプ関税で不確実性高まる中、25年の春闘賃上げ率は前年超えへ
2025年03月24日
「相互関税」による日本の実質GDPへの影響は最大で▲1.8%
日本に対する相互関税率は24%と想定外に高い水準
2025年04月03日
「相互関税」を受け、日米欧中の経済見通しを下方修正
2025年の実質GDP成長率見通しを0.4~0.6%pt引き下げ
2025年04月04日
米国による25%の自動車関税引き上げが日本経済に与える影響
日本の実質GDPを0.36%押し下げる可能性
2025年03月27日
2025年の日本経済見通し
1%台半ばのプラス成長を見込むも「トランプ2.0」で不確実性大きい
2024年12月20日
日本経済見通し:2025年3月
トランプ関税で不確実性高まる中、25年の春闘賃上げ率は前年超えへ
2025年03月24日