サマリー
◆2010年3月にオバマ政権のもと無保険者の削減や医療費の抑制を目指して成立した医療保険改革法(The Patient Protection and Affordable Care Act of 2010、以下、オバマケア)の現状、また、オバマケアに対する民主党候補ヒラリー・クリントン氏と共和党候補ドナルド・トランプ氏のスタンスの違いを整理し、大統領選の結果が医療政策や米国経済に与える影響について考察したい。
◆オバマケアによって米国の無保険者は減少したが、新たな保険加入者の増加が影響し、医療費とそれに伴う保険料は引き続き増加傾向にある。2014年の医療費は前年比5.3%増の3兆ドル超と、4年ぶりに増加ペースが加速している。また、2010年から2015年までの5年間で物価全体が10%上昇、賃金の上昇率が9%にとどまる中、医療保険料は27%も上昇している。
◆こうした状況にあるオバマケアについて、維持する、のみならずさらに強化を図るとしているのが民主党候補のクリントン氏であり、一方、廃止して新たなヘルスケアプランに置き換えるとしているのが共和党候補のトランプ氏である。ただし、俯瞰すれば、両候補の医療政策とも、医療費や保険料の高騰を問題視しており、これらを解消していくという方向性に違いはない。その方法として、クリントン氏が連邦政府の役割を増す方針であるのに対し、トランプ氏は自助に任せ、政府の影響を最小限にとどめるという方針の違いがある。
◆情報の非対称性が存在する医療保険については、従来の民間主導の改革によって、競争市場がうまく機能していくとは考え難い。そのため、クリントン氏が主張するように、保険市場で購入可能な公的医療保険を創設するなど、ある程度公的関与を強める方が、継続的に無保険者を削減しつつ医療費の高騰を緩和する効果があるようにも思われる。ただし、財政的な問題がネックとなろう。医療についても個人の選択や結果の責任を重視してきた米国が、こうした改革コストを受け入れていけるのかが注目される。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
同じカテゴリの最新レポート
-
AIの雇用への影響をどう読むか
一部の職種で狭まる若手の「入口」、経験を積む場をどう残すか
2026年10月14日
-
米DTCC、トークン化株式の本番取引を開始
証券トークン化、ウォール街の基幹的なポストトレード業務へ移行
2026年10月08日
-
米雇用者数は大幅減速、過去分も下方修正
2026年9月米雇用統計:ただし、均してみれば雇用環境は底堅い
2026年10月05日
最新のレポート・コラム
-
一括取得型自己株式取得(ASR)入門
ASRに関する基本的な事項をQ&A形式で解説
2026年10月16日
-
「次期学習指導要領等に向けた審議まとめ」における金融経済教育に関する記述
金融経済教育関連に限ると、大幅な拡充は行われない方向性か
2026年10月16日
-
日本の長期金利、2035年に5%台の可能性
2035年に3.5~4.2%程度で、海外保有拡大で1%pt超の上乗せも
2026年10月16日
-
なぜ企業は同じ情報を何度も提出しなければならないのか
公的統計のデジタル化を問う①-負担軽減の「効果」
2026年10月16日
-
成長投資の先にあるもの ~AI時代に問われる「組織能力」~
2026年10月16日
よく読まれているリサーチレポート
-
国税庁が非上場株式評価の方向性を公表
簿価純資産と収益力で評価する「残余利益方式」に統一の方向
2026年09月08日
-
GPIF経営委員会の8月開催が意味すること
基本ポートフォリオ見直しに向けて第一歩を踏み出したのか
2026年09月01日
-
日米協調介入は円安の是正にどこまで効果を発揮したのか?
更なる介入の合理性は低下。レジーム転換の有無が今後の焦点に
2026年09月14日
-
コーポレートガバナンス・コード改訂の焦点
企業の自律的な判断と実質を伴う説明が問われる
2026年08月27日
-
第230回日本経済予測(改訂版)
円安・金利上昇下の日本経済と成長力強化への課題①AI活用による経済への影響、②資産市場と経済の好循環、を検証
2026年09月08日
国税庁が非上場株式評価の方向性を公表
簿価純資産と収益力で評価する「残余利益方式」に統一の方向
2026年09月08日
GPIF経営委員会の8月開催が意味すること
基本ポートフォリオ見直しに向けて第一歩を踏み出したのか
2026年09月01日
日米協調介入は円安の是正にどこまで効果を発揮したのか?
更なる介入の合理性は低下。レジーム転換の有無が今後の焦点に
2026年09月14日
コーポレートガバナンス・コード改訂の焦点
企業の自律的な判断と実質を伴う説明が問われる
2026年08月27日
第230回日本経済予測(改訂版)
円安・金利上昇下の日本経済と成長力強化への課題①AI活用による経済への影響、②資産市場と経済の好循環、を検証
2026年09月08日

