サマリー
◆昨年後半から続くグローバル金融市場の動揺を背景に、世界経済の先行きに対する不透明感が強まっている。本稿では、世界経済の現状と先行きについて検討した。具体的には、過去に世界経済が「世界株安・世界生産減」に陥った局面の特徴を概観すると同時に、今後の動向を占ううえで重要な先行指標および深刻な「世界株安・世界生産減」に転落するか否かを分けるメルクマールについて詳細に分析を行った。
◆世界的な企業部門の弱さを背景に、世界生産の伸びは着実に鈍化している。世界生産の地域別要因分解を見ると、2015年11月~12月に米国がマイナスに転じている点にも警戒が必要だ。さらに、経済のグローバル化の進展を背景に、一国経済の減速に伴う生産調整は、輸入減少などを通じて他国にまで伝播する点に留意が必要である。
◆世界生産の先行きを占ううえで重要な指標として、様々な経済指標・金融データを比較・検証した結果、①米国ISM製造業景況感指数、②中国景気先行指数、という2指標に注目している。両指標の最近の推移からは、世界生産の減速が当面続くと見込まれる点に注意する必要があろう。ただし、足下で両指標に改善の兆しが出ていることから、世界生産は今後半年程度で底入れに向かう可能性が出ている。
◆様々な経済主体のストック面のデータに関しても、多面的に比較・検証した結果、深刻な「世界株安・世界生産減」に転落するか否かを分ける重要なメルクマールとして、米国企業の債務状況に注目したい。①債務残高(デット)対GDP比、②ハイイールド債スプレッド、を説明変数として「世界株安・世界生産減」の発生確率を推計すると、2015年12月時点で、24%程度まで上昇している。
◆企業債務に関しては、2010年代以降、新興国企業における信用残高の急拡大という問題が浮上している。今後、Fedの「出口戦略」などを背景にグローバル金融市場が動揺し、新興国からの資金流出が一層進むことになれば、新興国で積み上がった信用残高の大幅な調整(=信用収縮)を通じて、世界経済が下押しされることになる。すなわち、三度目の「世界株安・世界生産減」の引き金を引くのは、米国でなく新興国となる可能性があると言えよう。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
同じカテゴリの最新レポート
-
「トランプ2.0」、外国企業への「報復課税」?
Section 899(案)、米国に投資する日本企業にもダメージの可能性有
2025年06月13日
-
非農業部門雇用者数は前月差+13.9万人
2025年5月米雇用統計:緩やかな悪化に留まっていることを示唆
2025年06月09日
-
米国経済見通し 米中デタントも、景気は減速へ
財政悪化と学生ローン政策の変更が景気を一層減速させるリスク要因
2025年05月23日
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
日本経済見通し:2025年4月
足元の「トランプ関税」の動きを踏まえ、実質GDP見通しなどを改訂
2025年04月23日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
-
信用リスク・アセットの算出手法の見直し(確定版)
国際行等は24年3月期、内部モデルを用いない国内行は25年3月期から適用
2022年07月04日
-
「反DEI」にいかに立ち向かうか
米国における「DEIバックラッシュ」の展開と日本企業への示唆
2025年05月13日
-
中国:関税115%引き下げ、後は厳しい交渉へ
追加関税による実質GDP押し下げ幅は2.91%→1.10%に縮小
2025年05月13日
日本経済見通し:2025年4月
足元の「トランプ関税」の動きを踏まえ、実質GDP見通しなどを改訂
2025年04月23日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
信用リスク・アセットの算出手法の見直し(確定版)
国際行等は24年3月期、内部モデルを用いない国内行は25年3月期から適用
2022年07月04日
「反DEI」にいかに立ち向かうか
米国における「DEIバックラッシュ」の展開と日本企業への示唆
2025年05月13日
中国:関税115%引き下げ、後は厳しい交渉へ
追加関税による実質GDP押し下げ幅は2.91%→1.10%に縮小
2025年05月13日