サマリー
◆わが国で普及している国民皆保険制度だが、米国では導入に挫折してきた歴史がある。そのため発生した様々な医療の綻びについて、米国の医療保険制度を詳しく見ながら再考したい。また、わが国同様、高騰する米国の医療費について、民間の役割を多分に活用し、抑制を試みた手法とその結果を確認したい。
◆米国の公的医療保険としては、高齢者向けのメディケアと、低所得者向けのメディケイドが知られている。これらは、医療費高騰の影響で制度の破綻が危惧されていたり、一部民間保険会社に運営を任せたことでかえって医療費増加を招いたり、加入条件が厳しく設定されていたりと、問題が多い。
◆一方、米国の医療保険の中心となっている民間医療保険である雇用主提供医療保険は、グローバル競争の激化や景気後退などを背景に、かつてのような全額雇用主負担とする医療保険の提供が困難となっている。
◆また米国では、景気が悪化すると無保険者の数が一気に増加する。失業した場合、高額の保険料が全額自己負担となるため、医療保険に加入することが困難となる。その無保険者の増加が問題となっている。
◆2006年、マサチューセッツ州ではすでに全州民に対して保険加入を義務付ける法律が成立している。改革の効果は即座に現れ、無保険者率は全米一の低率である。しかし医療費増加の問題が、完全に解決されたわけではない。
◆現在、マサチューセッツ州の改革を参考に、オバマケアによる国民皆保険制度の導入が試みられているが、医療においても個々の自由と責任を追及してきた米国には、連邦政府が主導する制度の導入が馴染みにくい。
◆米国のケースでは、医療に関しては、患者、医師、保険者の間で「情報の非対称性」問題が生じやすいこともあり、単純に市場に任せると効率的な資源配分は困難であることがわかった。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
同じカテゴリの最新レポート
-
米国、設備投資費用の即時償却を復活・拡張
製造業・情報産業の新規投資、及び対米直接投資の増加要因か
2025年10月07日
-
米国経済見通し 利下げ再開後の注目点は?
景気下振れリスクが懸念される時こそ、インフレ動向を注視すべき
2025年09月24日
-
FOMC 0.25%ptの利下げを決定
先行きの利下げペースに関しては予想がばらつく
2025年09月18日
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
第226回日本経済予測(改訂版)
低成長・物価高の日本が取るべき政策とは?①格差問題、②財政リスク、を検証
2025年09月08日
-
聖域なきスタンダード市場改革議論
上場維持基準などの見直しにも言及
2025年09月22日
-
今後の証券業界において求められる不正アクセス等防止策とは
金融庁と日本証券業協会がインターネット取引の新指針案を公表
2025年09月01日
-
日本経済見通し:2025年9月
トランプ関税で対米輸出が大幅減、製造業や賃上げ等への影響は?
2025年09月25日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
第226回日本経済予測(改訂版)
低成長・物価高の日本が取るべき政策とは?①格差問題、②財政リスク、を検証
2025年09月08日
聖域なきスタンダード市場改革議論
上場維持基準などの見直しにも言及
2025年09月22日
今後の証券業界において求められる不正アクセス等防止策とは
金融庁と日本証券業協会がインターネット取引の新指針案を公表
2025年09月01日
日本経済見通し:2025年9月
トランプ関税で対米輸出が大幅減、製造業や賃上げ等への影響は?
2025年09月25日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日