第194回日本経済予測

経済成長の牽引役は外需から内需へ~①日米景気の転換点、②賃金動向、③地域経済、を検証~

RSS

2017年08月17日

  • 調査本部 副理事長 兼 専務取締役 調査本部長 チーフエコノミスト 熊谷 亮丸
  • 政策調査部 政策調査部長 近藤 智也
  • 金融調査部 主任研究員 長内 智
  • 小林 俊介
  • 笠原 滝平
  • 前田 和馬
  • 経済調査部 エコノミスト 山口 茜
  • 経済調査部 研究員 廣野 洋太
  • 鈴木 雄大郎

サマリー

  1. 日本経済成長の牽引役は外需から内需へ:2017年4-6月期GDP一次速報の発表を受けて、経済見通しを改訂した。改訂後の実質GDP予想は2017年度が前年度比+1.9%(前回:同+1.5%)、2018年度が同+1.2%(同:同+1.1%)である。外需拡大はいったん足踏みするものの、①雇用環境の改善に伴う消費の拡大や②生産性向上投資を牽引役として、内需牽引型の成長が続く見通しだ。2017年度には、過去の個人消費に停滞感をもたらしてきた①年金の特例措置の解消、②現役世代の税・保険負担の増加、③過去の景気対策の反動、のいずれの要因についても、悪影響が一巡し、個人消費の見通しを明るくする好材料となっている。2018年度にかけては、これらの好材料が剥落することに加え、設備投資の循環が成熟化に向かうことなどから、成長速度は緩やかに鈍化する見通しである。
  2. 論点①:日米の景気はどこから落ちるのか?:日米の景気の「踊り場」や「景気後退」に陥った局面などの平均的な実質GDPの動きを分析した。まず、日本の場合、輸出の減速度合いや民間在庫の動きなどが「踊り場」や「景気後退」に陥るか否かのポイントになる。足下では内需が堅調に推移しており、再び「踊り場」に陥るリスクは小さいとみられる。一方、米国では、個人消費の強靭性や在庫調整の深刻さが景気判断のカギとなるが、こちらも、現状は「踊り場」入りを懸念する状況ではない。ただ、足下の長短金利差の縮小傾向はリスクの高まりを示すことから、今後の動向には留意が必要だ。
  3. 論点②:賃金上昇率はどれだけ抑制されているのか?:過去の景気拡張期との比較や賃金関数の推計などを通じて、労働者の賃金が伸び悩んでいる背景について分析した。第12循環(1993年10月~1997年5月)に比べて、今回(2012年11月~)の局面で賃金が伸び悩んでいる理由は、賃金水準の低いパートタイム労働者の比率が第12循環に比べて速いペースで上昇(=賃金の押し下げに寄与)していることに加えて、一般労働者の名目所定内給与の低迷が全体の重石になっていると評価できる。過去の賃金構造に比べて、今回の局面は年率で1.9%pt程度賃金上昇率が抑制されていると推計される。今後は、日本の雇用慣行に見られる「岩盤規制」の緩和などを通じて労働生産性を向上させ、それを持続的な賃金上昇につなげることが重要だ。
  4. 論点③:地域経済の先行きを3つのシナリオから分析する:大和証券グループでは、AI(人工知能)モデルを活用して地域別の景況感を示した「大和地域AI(地域愛)インデックス」を2017年7月に公表した。さらに、今回は地域経済の主要な業種についてより仔細に確認し、地域・業種によって成長モデルが異なることを明らかにした。海外経済で想定し得る3つのシナリオごと(①世界的な半導体需要の高まり、②米国のシェール関連投資の拡大、③米国の自動車市場のさらなる減速)にどの地域に影響が及ぶかを示した。このように海外経済との関係性を把握することは、景気の振れ幅の低減や成長市場の取り込みなど地域経済の今後を考える上で有益な視座を与えるものである。
  5. 日本経済のリスク要因:今後の日本経済のリスク要因としては、①トランプ大統領の政策、に加えて、②中国経済の下振れ、③米国の「出口戦略」に伴う新興国市場の動揺、④地政学的リスクおよび政治リスクを背景とする「リスクオフ」、⑤英国のEU離脱交渉や欧州金融機関のデレバレッジ、の5点に留意が必要だ。
  6. 日銀の政策:日銀は、現在の金融政策を当面維持する見通しである。2016年9月に導入した新たな金融政策の枠組みの下、デフレとの長期戦を見据えて、インフレ目標の柔軟化などが課題となろう。

【主な前提条件】
(1)公共投資は17年度+5.3%、18年度▲1.8%と想定。
(2)為替レートは17年度111.0円/㌦、18年度111.0円/㌦とした。
(3)米国実質GDP成長率(暦年)は17年+2.1%、18年+2.3%とした。

このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。