サマリー
◆本レポートは、働き方改革関連法により導入された残業時間の上限規制の政策効果を検証した。この上限規制は一般的な労働者には適用される一方、管理職は適用対象外である点を踏まえて、同じ個人を複数年にわたって繰り返し観察したパネルデータと固定効果モデルと呼ばれる計量モデルを利用して政策効果を推定した。
◆その結果、残業時間の上限規制は総じて労働時間の減少や長時間労働の抑制などに効果があった可能性が示唆された。例えば、月間労働時間に対して大企業は▲3.0時間、中小企業は▲2.6時間の政策効果が統計的に有意に推定された。また、月100時間以上残業する確率に対しても、大企業は▲1.1%pt、中小企業は▲1.7%ptの有意な政策効果が推定された。男女別に見ると、男性の方がより明確な効果が観察された。
◆大企業では一定の残業時間を超える確率が広範に低下したのに対し、中小企業では女性が規制に抵触しない低めの残業時間を超える確率が高まった。この背景としては、短期的には生産性を高めるのが難しい中、大企業は削減された労働時間をより積極的な従業員の採用で補う一方、中小企業はもともと残業時間が少なかった一部従業員の残業増で対応する傾向があった可能性などが指摘できる。
◆今後は、残業時間の上限規制が新たな問題を引き起こす可能性も議論すべきであろう。具体的には、規制の対象外である管理職への業務の集中や「名ばかり管理職」の増加、同じ仕事をより短い時間で終わらせるプレッシャーの増大、などが懸念される。単なる残業時間の短縮だけでなく、業務プロセスの改善や優先度の低い仕事の削減を含めた、生産性を高める真の働き方改革が求められる。
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