サマリー
◆2000年以降の日本の実質賃金は伸び悩んだが、背景には生産性上昇率の低さに加え、企業努力が「コストカット」型で経済規模の拡大につながりにくかったことがある。資源高で実質賃金の原資となる所得が海外に流出したことも響いた。また社会保険料の増加により、可処分所得ベースの実質賃金はほとんど上昇しなかった。その意味で、デフレからの完全脱却や脱炭素化の推進、社会保障給付費の抑制などは実質賃金の上昇を後押しするとみられる。
◆日本の労働生産性上昇率は米国やドイツに比べ資本のプラス寄与が小さい。有形資本では非ICT投資が少なく、無形資本では特に人材投資(OJTは含まれない)で見劣りする。日本の付加価値シェア上位20業種のうち、16業種でGDP比の人材投資が欧米主要国の最低水準を下回る。また日本は米国に比べ、各業種の労働生産性上昇率がおおむね低いだけでなく、生産性が低下した業種に多くの労働量が投入されている点も課題だ。
◆労働生産性の「水準」に目を向けると、日本は主要先進国の中で最低である。とりわけ非製造業で課題が多く、2000年以降に生産性が低下した業種も少なくない。非製造業の14業種のうち、宿泊飲食や電気ガス水道など4業種では人口減少の影響を調整しても需要が減少しており、生産性も低下している。保健衛生では高齢化などを背景に需要が増加しているにもかかわらず、生産性が低下している。各業種の実情を踏まえたきめ細やかな対応策を、官民を挙げて幅広く、粘り強く講じる必要がある。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
執筆者のおすすめレポート
-
第216回日本経済予測(改訂版)
少子化対策と金融政策の「次元」は変わるか①少子化対策、②賃上げ、③日銀金融政策、を検証
2023年03月09日
-
賃金と物価の循環的上昇は加速するか
行動変容の継続、春闘での大幅賃上げ、円滑な価格転嫁がカギ
2023年02月22日
同じカテゴリの最新レポート
-
2025年1-3月期GDP(1次速報)予測 ~前期比年率+0.5%を予想
外需が下押しも内需は堅調/小幅ながら4四半期連続のプラス成長
2025年04月30日
-
2025年3月鉱工業生産
自動車工業や電気・情報通信機械工業など10業種が前月から低下
2025年04月30日
-
急速に広がる資格情報等のデジタル化
利用時に気をつけるポイントと求められるデジタルリテラシー
2025年04月28日
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
トランプ関税で日本経済は「漁夫の利」を得られるか?
広範な関税措置となっても代替需要の取り込みで悪影響が緩和
2025年03月03日
-
地方創生のカギとなる非製造業の生産性向上には何が必要か?
業種ごとの課題に応じたきめ細かい支援策の組み合わせが重要
2025年03月12日
-
中国:全人代2025・政府活動報告を読み解く
各種「特別」債で金融リスク低減と内需拡大を狙う
2025年03月06日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
-
2025年の日本経済見通し
1%台半ばのプラス成長を見込むも「トランプ2.0」で不確実性大きい
2024年12月20日
トランプ関税で日本経済は「漁夫の利」を得られるか?
広範な関税措置となっても代替需要の取り込みで悪影響が緩和
2025年03月03日
地方創生のカギとなる非製造業の生産性向上には何が必要か?
業種ごとの課題に応じたきめ細かい支援策の組み合わせが重要
2025年03月12日
中国:全人代2025・政府活動報告を読み解く
各種「特別」債で金融リスク低減と内需拡大を狙う
2025年03月06日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
2025年の日本経済見通し
1%台半ばのプラス成長を見込むも「トランプ2.0」で不確実性大きい
2024年12月20日