持続的で高水準の賃上げ実現に必要なこと

国際比較・業種別の生産性分析から浮かび上がる日本の課題

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2023年03月10日

サマリー

◆2000年以降の日本の実質賃金は伸び悩んだが、背景には生産性上昇率の低さに加え、企業努力が「コストカット」型で経済規模の拡大につながりにくかったことがある。資源高で実質賃金の原資となる所得が海外に流出したことも響いた。また社会保険料の増加により、可処分所得ベースの実質賃金はほとんど上昇しなかった。その意味で、デフレからの完全脱却や脱炭素化の推進、社会保障給付費の抑制などは実質賃金の上昇を後押しするとみられる。

◆日本の労働生産性上昇率は米国やドイツに比べ資本のプラス寄与が小さい。有形資本では非ICT投資が少なく、無形資本では特に人材投資(OJTは含まれない)で見劣りする。日本の付加価値シェア上位20業種のうち、16業種でGDP比の人材投資が欧米主要国の最低水準を下回る。また日本は米国に比べ、各業種の労働生産性上昇率がおおむね低いだけでなく、生産性が低下した業種に多くの労働量が投入されている点も課題だ。

◆労働生産性の「水準」に目を向けると、日本は主要先進国の中で最低である。とりわけ非製造業で課題が多く、2000年以降に生産性が低下した業種も少なくない。非製造業の14業種のうち、宿泊飲食や電気ガス水道など4業種では人口減少の影響を調整しても需要が減少しており、生産性も低下している。保健衛生では高齢化などを背景に需要が増加しているにもかかわらず、生産性が低下している。各業種の実情を踏まえたきめ細やかな対応策を、官民を挙げて幅広く、粘り強く講じる必要がある。

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